貞観政要とは?1300年も読まれ続ける経営者や上司の教科書

2021年7月30日


 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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上司は部下がいないと存在できない

人望のある劉備

 

世の上司や経営者の中には、俺が部下を食わせてやっていると考えている人がいます。確かに経営者や上司が仕事を持ってこないと部下には仕事がありません。でも、逆にいかに仕事を取ってきても部下がいなければ、いかに有能な上司や経営者でも、1人で仕事を回す事は出来ないのではないでしょうか?

 

貞観政要で太宗はこのように言います。「皇帝が、人民から重税を取り立て贅沢するのは、自分の足の肉を割いて腹に食わすのと同じだ。それで満腹になっても足は弱り、もう立つ事は出来ない」

 

餓えた農民(水滸伝)

 

つまり皇帝と人民は一心同体であり、人民が弱って倒れると人民に寄生している自身もやがて倒れるほかはないと太宗は理解していたのです。だから、太宗は自ら質素倹約し、少しでも人民の取り分を増えるよう努力しました。そうすれば、いずれ豊かになった人民のお陰で国が富み、自分も豊かになると考えていたのです。

 

上司も皇帝も同じで1人で出来る事は限られます。

劉備

 

逆に考えれば、部下が懸命に働くから、利益も得られ上司の生活が成り立つのです。部下のお陰で自分の生活が保障されていると考えれば、部下が気分よく働いてくれるように、自分が何をすべきか?見えてくるのではないでしょうか?

 

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太宗が持っていた鏡

 

優れた上司や経営者に、もっとも必要なのは正しい決断が出来る能力です。上司の決断は組織の人や物、お金を動かしますので、失敗すると組織に大きなダメージを与える事になります。

 

では、よい決断をする上で必要なモノは何でしょう?

 

貞観政要で太宗、李世民はこう言いました。「まず銅を鏡とすれば自分の顔や姿を映して健康状態を知る事ができるそして過去を鏡とすれば、世の中の栄枯盛衰を知る事ができる。人をもって鏡とすれば、己の過ちを防ぐ事ができる」このように太宗は決断を下す上で、銅鏡、過去の鏡、人の鏡が必要だと述べています。

 

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3枚の鏡とは?

司馬師と司馬懿

 

銅の鏡とは現在でいう普通の鏡です。上司というのは、部下にとって一番身近な手本となる存在です。だから、上司が明るく楽しそうに仕事していれば、部下も明るく楽しく振る舞い活気のある職場になります。

 

逆に上司が不機嫌で、つまらなさそうに仕事すれば部下もつまらなそうに仕事をし、暗い職場になります。第三者から見て、どちらの職場と仕事をしたいかは言うまでもないでしょう。

 

だから、上司や経営者になる人は、常に自分が見られていると意識し、明るく元気に振る舞わないといけません。それが出来ないという事であれば、その人は人の上に立つ事に向いていないという事です。

 

法正

 

2つ目の過去の鏡とは、過去の事例から未来を推しはかるという事です。過去に起きた事が、そっくりそのまま再び起きるとは限りませんが「歴史は繰り返す」というように似たような事件は起きたりします。

 

似たような出来事なら、過去を参考に対策を立てる事も出来るでしょう。予測が難しい将来を知る為に、過去を学ぶのは、とても重要な事なのです。最後の人の鏡とは、自分の近くにいる人の事です。

 

人間は自分で自分の事が分かりません。むしろ自分の事は周囲の人が知っている事が多いものです。なので、近くに自分の悪い点や長所を遠慮なく発言してくれる人を置いて、人間の鏡とするのです。その為には厳しい事をいう人を鏡とする事が必要ですが、いつも厳しい事ばかりを言われると心が疲れます。可能ならば、複数、人の鏡を置き、発言のバランスを取るようにしましょう。

 

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感情と思考は密接に繋がる

袁術

 

感情と思考は私達が思っている以上に密接に繋がっています。つまり人間は怒ったり、悲しんだり、嬉しかったりして感情の振れ幅が大きくなると思考に余裕が消え判断を誤ります。それが自分1人の時ならまだ被害が小さいですが、組織の中で感情に引きずられた判断を下すと、トラブルが大きくなる可能性もあります。

 

貞観政要の中で太宗は、「古来、多くの帝王は自分の感情のままに喜んだり怒ったりしてきた。喜んでいる時は、それほど功績を挙げていない人間にまで褒美を与え、怒っている時には罪のない人間まで殺してしまう。世の中の乱れとは、多くの場合、帝王が感情のままに振る舞う事が原因になっている」と言っています。

 

董卓

 

これを組織に当てはめれば、上司が感情のままに振る舞う組織は混乱するという事になるかと思います。しかし、人間が感情の動物である事も事実、このような場合一体どうすればいいのでしょう?

 

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健康を取り戻しじっくり考える

眠る董卓

 

感情が揺れた時、心をフラットに取り戻す効果的な方法は、睡眠を取って健康を回復させる事。そして問題にすぐに答えを出さず時間を置く事です。

 

上司や経営者は、重大な決断を下さないといけない局面に遭遇する事が普通よりも多くあります。こんな場合、大抵、心は揺れて正常な判断が下しにくい状態になり、早く決断を下して楽になりたいという心理も働くでしょう。

 

酔いつぶれる劉備玄徳

 

しかし、こんな場合こそ、休息を取って心身を休まさなければいけません。そして、早く決断せねばと逸る気持ちを抑え、決断に少し時間を取る事が必要です。

 

気分転換としては、その仕事と全く関係がない趣味などに没頭するのもいいでしょう。一生懸命サイレンを鳴らし焦る自分の心をひとまず脇に置いて、しっかり休養を取り、決断すべき問題についてじっくり考えてみましょう。

 

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複数の人の意見を聞く

聖徳太子

 

上司のなすべき仕事は組織をまとめ、方向性を示す事だと書きました。この方向性を示すには、あらゆる方向から情報を集めないといけませんし、その為には複数の人から意見を聞く必要があります。

 

貞観政要の問答で、太宗は重臣の魏徴(ぎちょう)に「どのような人物が暗君で、どのような人物が名君だと思うか?」と質問します。

 

朝まで三国志2017 観客 モブ

 

それに対し魏徴は「君主が名君とされるのは、多くの人間の意見を聞いているからです。そして、君主が暗君となるのは、1人の人間の意見しか聞かないからです」と答えました。

 

人は視野が狭くなると間違いを起こしやすくなります。ましてや、特定の人間からしか情報を得ないのでは、いつの間にか社会からズレてしまい、とんでもなく誤った判断を下してしまうかも知れません。

 

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アドバイスで人を選ぶな

張良と劉邦

 

幅広い人の意見を聞く事には自信があるという経営者や上司は多いようです。経営者ともなれば、取引先との付き合いも多く同業者との交流もあり人脈は太いでしょう。私は大勢の人と話をして広く情報を取り入れているから大丈夫。

 

でも、本当にそうでしょうか?

 

大勢の人から話を聞くと言っても、それがあなたの仲間や友達では無意味です。何故なら、そういう人はあなたが何を言えば気分を良くし、何を言えば不愉快になるか知っていて、当たり障りがない事しか言わないからです。それなら100名と話しても1人と話しているのと違いはありません。

 

韓信と劉邦

 

本当にバイアスがない意見を聞くには、利害が対立する相手や、あなたとは直接利害関係がない人の意見にも耳を傾ける必要があります。

 

そういう人は、あなたに遠慮なく本音をぶつけ、時には不愉快にさせるでしょう。しかし、良言は耳に逆らうもので、そこは忍耐で乗り切らないといけません。

 

貞観政要において太宗は、自分の政治方針ばかりか後宮においてのプライベートな事や、嫁がせる姫の花嫁道具が豪華すぎるという事まで家臣に諫言されました。普通なら「プライベートな事まで口を挟まないでくれ!」と顔色を変えそうですが、太宗は忠告に感謝するとアドバイスを受け入れています。

 

上司や経営者の心得で一番出来そうで、出来ないのが複数の人間の意見を聞くという事ではないでしょうか?

 

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貞観政要 まとめ

朝まで三国志2017-77 kawauso

 

貞観政要は人の上に立つ人間は最初に己をコントロールせよと説きます。自分を厳しく律し、与えられた大きな権力を私利私欲に使わずに、適切に組織の為に使う。そうしないと与えられた権力が組織を駄目にし、結局、自分の身を滅ぼすからです。

 

上司や経営者は部下の鏡であり、上司や経営者が立派であれば、自然に部下も信頼感を持ち、一生懸命に働くようになります。人を変えるのではなく、まず自分を変える、自分が変わると周囲が変わる。貞観政要は、その事を教えつづけている人の上に立つ人の教科書なのです。

 

参考文献:NHK100分de名著 呉兢“貞観政要”

 

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戦国策

 

 

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台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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