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「北方三国志」面白さ1 馬超と張衛に焦点当てる
そして、他の作品ではあまり顧みられることのなかった人物に着目している点が「北方三国志」の面白さでしょう。特に、「北方三国志」では馬超と張衛という2人に光を当てています。
演義での馬超は涼州の豪族たちの首領として登場し、曹操と戦って敗れた後に蜀の劉備に従い、関羽や張飛らとともに蜀の五虎大将軍に任命されたことが知られていますが、劉備に仕官した後の馬超は精彩を欠き、ほぼ活躍していません。
つまり演義では、馬超はあくまでも劉備や曹操の引き立て役に過ぎなかったということなのです。しかし、「北方三国志」での馬超は主要登場人物の一人であり、作中での主要登場人物たちとの関係を中心に描写される、作中の狂言回しとしての役割を担っています。
「北方三国志」での馬超は、涼州の有力者馬騰の息子として生まれ、若くして涼州軍の総帥となって曹操と戦います。作中での馬超は殺戮の続く戦乱の世に嫌気がさしており、涼州軍の総帥として戦乱に身を投じるしかない自分自身に対しても言いようのない虚無感を感じていました。
しかし、曹操軍との戦いや張飛・簡雍・劉備といった人々との触れ合いの中で、次第に馬超は己を取り戻していくのです。
張衛は五斗米道の教祖である張魯の弟ですが、他の作品ではその名前すら登場しないということがほとんどでしょう。しかし、「北方三国志」での張衛は、中盤から最終盤にかけてしばしば物語の中に現れてくる重要な人物であり、張飛や馬超、兄である張魯との関係の中で次第にその内面が変化していきます。
張衛ははじめ、漢中を支配する教祖の張魯に従い、軍を率いて漢中を防衛する役割を担っていました。しかし荊州時代の劉備や張飛らとの戦いや、曹操軍との戦いの中で、次第に漢中という狭い世界を飛び超え、「天下」というものを意識し始めるようになります。
そして、張衛は曹操に降伏した兄と袂を分かち、己の道を進んでいくようになります。
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「北方三国志」面白さ2 表と裏の物語
劉備や曹操といった序盤・中盤を飾った英傑たちの死後は、演義でもお馴染みの諸葛亮に加えて、馬超と張衛が物語を牽引していく存在となるのです。つまり、「北方三国志」は、劉備や曹操たちの活躍する「表の物語」と、馬超や張衛といった、演義ではあまり光が当てられてこなかった人物たちの成長や内面の変化を描く「裏の物語」からなっていると言えるのです。
このような「表の物語」と「裏の物語」は当初は別々に進行していきますが、ある時を境に次第に交わり、一つの物語となっていきます。こうした物語進行の妙が楽しめるのも、「北方三国志」の面白さと言えるでしょう。
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三国志ライター Alst49の独り言
以上、「北方三国志」の面白さや魅力について紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。もちろん、この記事だけで「北方三国志」のすばらしさを語りつくすことなどできません。
この記事を読んで、「北方三国志を読んでみたい」「北方三国志に興味が湧いた」という皆さんは、ぜひ「北方三国志」を手に取って、その魅力的な漢たちの世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
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