三国志の中でもハイライトのひとつが、諸葛亮による北伐でしょう。
その軍事的壮大さのみならず、けっきょくは大きな成果をあげられず、無念の孔明病没につながるという「悲劇性」も、三国志ファンの心をかきたてる展開でした。そして、たくさんのイフ展開を空想させてくれる豊かな想像力の水源でもあります!
今回は、北伐にまつわるイフ展開をひとつ考えてみたいと思いますが、ものすごく「ド直球」な仮定をおいてみましょう。つまり、実際の歴史では失敗に終わった北伐が成功していたら、それはそれで、その後の歴史はどうなっていたのでしょう?
この記事の目次
蜀の掲げた「漢の中興」という大義
まずは史実の整理から。
諸葛亮の北伐というのは、蜀が三国最強である魏に対しての挑戦として、漢中から長安方面に向けての遠征を開始したものとなります。
蜀は兵員兵站は総力、そして諸葛亮に随行する将軍たちにもトップ人材ばかりを揃えるという威容でした。
ただし、この勇壮さに目を奪われがちですが、蜀の諸葛亮の最終目標は、あくまで「漢王朝の再興」です。諸葛亮の目に入っていたのは長安であり、さらにその向こうにある、洛陽でした。北伐の成功をもって魏を倒せるなどとは、むろん、諸葛亮も考えていなかったでしょう。
ですが、長安を奪取し、その勢いをもって洛陽までの奪取に成功すれば、「漢王室の正統な後継国」を旗印とする蜀の威信がハネあがり、いっぽうで、魏の威信はそれだけでズタズタです。地方で起きた軍事衝突にみえますが、魏にとっても、蜀にとっても、この戦いの趨勢は双方の威信にかかわる、重要な戦いだったといえます。
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【北伐の真実に迫る】
諸葛亮が洛陽を奪取したらそれは思わぬヤブヘビとなる!
ではここで、イフ展開の空想を膨らませ始めましょう!
史実では失敗した北伐が成功して、諸葛亮がみごとに長安を奪取し、その勢いで洛陽にまで入ってしまったら?
先ほど述べた通り、魏の威信は失墜します。ですがここで考えてみましょう。歴史上、とても強くて、大きな国が軍事的な大敗を喫してその威信がゆらいだとき、たいてい、何が起こりますか?
そういうときはたいてい、その国が崩壊するよりも前に、「今の指導部ではだめだ!」という気運が高まり、クーデターが起こって、内部が刷新され、むしろ強国になってしまいます。考えてみれば、このシナリオでも、魏という国はいぜん大国のままなので、最も大きな打撃を受ける「威信」は、すでに衰え始めていた曹一族の「威信」です。
「曹操様は偉かったが、もはや曹一族には魏を率いる力はない!このままではだめだ!」と魏の将軍たちが奮起したら?
なにせ、優秀な人材が揃っていた魏の中央権力。曹一族に対するクーデターが起こり、フレッシュな顔ぶれでの新体制が出来上がり、その指導のもとで、すさまじい勢いでの「洛陽奪還作戦」が始動するでしょう。
このときの魏軍の強さは北伐時の比ではありません。諸葛亮は洛陽に入ったのも束の間!魏を団結させ、さらなる強敵にしてしまうというヤブヘビを踏んだことになるのです!
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晋王朝が、史実よりも早く、来たー!
このシナリオで、曹一族へのクーデターを断行し、実権を握るのは誰でしょうか。こういうときに出てくるのは、やはり、司馬懿でしょう。
このシナリオでは司馬懿は北伐で一度、諸葛亮に負けているわけですが、賢い彼のこと、「私は善戦をしていたのに、魏の古い体制のせいで孔明に勝てなかった!旧体制が悪い!」と責任転嫁をして、うまく自分がクーデター派のトップを握ることでしょう!
史実でも、曹氏の帝位はしだいに形骸化し、実権は司馬氏の手に移り、最終的に晋の建国へとつながりましたが、この「北伐成功シナリオ」では晋王朝による魏王朝からの帝位簒奪プロセスが数十年早まってしまうのです!
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天下は「蜀」対「魏」ではなく「蜀」対「晋」の洛陽奪取戦
このシナリオでは、三国志の歴史は史実よりもはるかに急スピードで加速します。
蜀の諸葛亮が洛陽を占領してそこに軍の主力をおいているところに、晋の皇帝となった司馬懿が全力を挙げて襲い掛かる、これこそ、まさに、天下分け目の大合戦!
蜀が洛陽を守り切れるか、それとも晋が洛陽を奪取し蜀軍に壊滅的打撃を加えるか。この天下二分の頂上決戦で、まさに三国志の決着がつきます!しかしこれは、歴史ファンにとっては夢のような頂上決戦となるでしょう。
史実では諸葛亮と司馬懿は何度も漢中方面で対峙しましたが、それは局地的な戦いに過ぎませんでした。ですがこのシナリオでは、諸葛亮と司馬懿はまさに、中国の未来を賭けた、一世一代の最終決着戦を見せてくれることでしょう。この両者の、真の意味での「本気の最終ラウンド」が見られるのは、三国志ファンとしては思わず胸が高鳴るところでは?
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まとめ:そして孫権は涙目に?
こうして、北伐が成功したシナリオでの天下の図式は、三国鼎立からいっきに「蜀対晋」の直接対決へと向かいます。こんな壮大な絵の上で、諸葛亮と司馬懿が最終ラウンドを迎えるのです!
ただひとつ、このシナリオでは、貧乏くじを引く勢力があります。孫権軍です。完全に蚊帳の外になってしまい、天下取りレースからは脱落するでしょう。
とはいえ、孫権軍はこの頂上決戦の折に、蜀か晋のどちらかに従う決断をせざるを得ません。中立を守ろうとすれば、頂上決戦の決着後、その勝者によって滅ぼされてしまうからです。どちらかの勢力に早めに恭順するしかありません。
しかし孫権がここで司馬懿の靴をなめる選択はありえないでしょう。となると、孫権は、蜀との同盟を結び、事実上はその傘下勢力となって、晋を牽制するための地方での局地戦を散発させつつ、蜀の国境を守ってあげるという脇役になるでしょう。
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三国志ライターYASHIROの独り言
孫権は涙目、および孫権ファンは涙目展開かもしれませんが、これで蜀が勝ってくれれば、孫権もハッピーエンドに向かうので、全力で諸葛亮を応援してもらうしかなさそうですね。多少悔しいかもしれませんが、司馬氏にけっきょく子孫を滅ぼされた史実よりはマシと、覚悟を決めていただきましょう!
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諸葛孔明の兵法 「三国志」最強の軍師に学ぶ生存戦略・処世訓 / 守屋洋