北方謙三『水滸伝』は原典とどう違う?ドラマから入った人が戸惑う3つのこと

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「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務めるほか、紙媒体やWebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

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おとぼけ(田畑 雄貴)

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水滸伝01 北方謙三 水滸伝 特集バナー 宋江

 

北方謙三先生の『水滸伝』と原典の『水滸伝』は、別の物語として読んだほうがいい。人物の名前は同じ。108人という数も、席次も同じだ。

 

宋江、史進、李逵、魯智深、林冲、武松、楊志(水滸伝)

 

それでも骨格が違う。この記事では違いを3つに絞って解説する。んで、最後に「じゃあどっちから読めばいいのか」という話までする。

 

宋江 水滸伝

 

僕は北方謙三先生の水滸伝から入った。

 

 

その前に『まんがで読破』シリーズの『水滸伝』を読んでいたので、原典のあらすじだけは頭にある状態だった。原典を薄く知ったまま北方版を開いた側だ。この記事は、その二つを突き合わせるとどこが違うのかをまとめたものになる。

 

 

北方謙三『水滸伝』と原典の違い|大きいのは3つ

梁山泊(水滸伝)

 

項目 原典『水滸伝』 北方謙三版『水滸伝』
梁山泊の性格 行き場を失った者が流れ着く場所 世直しのために作られた組織
高俅ら腐敗した官 高俅に加えて青蓮寺という諜報組織
108人の生死 原典どおりの順で死んでいく 生き残る者と死ぬ者が入れ替わる

 

関連記事:水滸伝の登場人物と相関図|梁山泊108人の好漢を原典と北方謙三版の違い付きで解説

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違い1|梁山泊が「世直しのための組織」として作られている

宋江(水滸伝)

 

北方版の梁山泊は、最初から目的を持って作られる。原典の梁山泊は、罪を着せられた者や食い詰めた者が次々と流れ着いて、気づけば大きくなっていた場所だ。宋江が加わるのも、人を殺して逃げた末のことだった。北方版では順番が逆になる。宋江が先に世直しの志を持ち、そのための拠点として梁山泊を手に入れる。

 

王倫

 

分かりやすいのが、初代首領・王倫の最期だ。ここは原典と同じ流れだろうと思い込んでいた。梁山泊の頭領が代わる場面なんて、どちらも似たようなものだろう、と。並べてみると違う。

 

水滸伝03 晁蓋を迎え入れる事に消極的だった王倫

 

原典では、入山を渋る王倫に腹を立てた林冲が、その場で斬る。北方版では宋江が林冲と安道全を先に潜入させ、晁蓋と呼応して王倫を斬る。同じ結果でも、片方は激情、もう片方は計画だ。ここ、好きなんだよね。拠点の作りも違う。北方版の梁山泊には二竜山・双頭山・流花寨といった複数の拠点があり、募兵と調練を担う場所、物資を作る場所、遼との交易を担う場所と役割が分かれている。山賊の砦というより、山に置かれた組織だ。寝る部屋と物置と台所を分けるみたいに、山ごとに役割が振ってある。

 

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水滸伝入門ガイド

 

違い2|青蓮寺という敵が出てくる

魏の間諜(スパイ)北方三国志

 

青蓮寺は北方版だけに登場する組織だ。原典に該当する存在はない。役割は諜報。梁山泊に間者を送り込み、資金の流れを断ち、内側から崩そうとする。総帥は袁明、その配下に李富がいる。やっていることは、学校で誰かの評判を落として孤立させるのと変わらない。規模が国になっただけだ。

 

はじ三倶楽部 スマホの誤変換でイライラする参加者(はてな)

 

ドラマから入った人が最初に戸惑うのは、たいていここだ。原典を読み始めても青蓮寺が出てこない。ただ、青蓮寺が置かれた理由は分かりやすい。

 

史進(水滸伝)

 

原典の梁山泊は、官軍との野戦で勝ったり負けたりを繰り返す。敵は目に見える軍隊だ。ところが北方版の梁山泊は世直しを掲げる組織なので、正面からぶつかるだけでは物語が持たない。組織には組織をぶつける必要がある。青蓮寺はそのために置かれた敵だと考えると、収まりがよくなる。

 

 

高俅はどちらにも出てくる

高キュウ(高俅)

 

蹴鞠の腕で皇帝に気に入られて出世した高俅は、原典にも北方版にも出てくる。林冲を陥れる役どころも共通だ。青蓮寺だけが足された。そう考えれば十分だと思う。

 

 

違い3|死ぬ人と生き残る人が入れ替わっている

史進(水滸伝)

 

ここが読むうえでいちばん影響の大きい違いかもしれない。北方版では、原典で死んだ人物が生き残る。史進や白勝がそうだ。逆に、原典では生き延びる人物が早々に死ぬこともある。原典を先に読んでいても、誰がいつ死ぬかは読めない。んで、ここからが北方版ならではの仕掛けだ。

 

 

章のタイトルが予告になっている

 

各章のタイトルには「天魁の星」「地傑の星」のように、百八星の宿星名が使われている。そして、タイトルに宿星が使われた章では、その宿星の人物が死ぬ。まだタイトルに使われていない人物は、当面死なない。ちなみに巻のタイトルは「曙光の章」「天地の章」のように別の付け方をしている。宿星名が並ぶのは、巻の中の章のほうだ。

 

なぜ、わざわざ先に教えてしまうのか。最初は読者への親切かと思った。んで、読み返すと逆な気もしてくる。残りのページ数と名前を突き合わせながら読ませる、けっこう意地の悪い仕掛けだ。正直、ここは決め手を持っていない。死を隠さない書き方が効く読者もいれば、興ざめだと感じる読者もいるはずだ。ここから先は、読む人が自分で決めるところだと思う。

 

 

北方謙三の水滸伝のオリジナル設定:聚義庁の札

宋江の夢(水滸伝の主人公)

 

梁山泊の中枢である聚義庁には、頭領たちの名を書いた札が掲げられている。生きているうちは黒い字。死ぬと札が裏返され、赤い字に変わる。壁を見れば、あと何人残っているかが分かる。この設定も原典にはない。

 

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ドラマから原作に入ると、どこで戸惑うか

 

ドラマ『北方謙三 水滸伝』の原作は、原典ではなく北方版だ。ここを取り違えると、書店で買う本を間違える。戸惑いやすいのは次の3つだ。

 

戸惑うところ 理由
青蓮寺が出てこない 原典を買ってしまった場合。北方版のオリジナル組織のため
宋江の印象が違う 原典の宋江は流れ着いた側。北方版は最初から志を持つ側
死ぬ順番が違う 北方版は原典の生死を入れ替えている

 

では、どちらから読めばいいのか。原典を先に読んでおくと、北方版の変え方が全部見える。逆に、ドラマから入って北方版を読み、あとから原典に触れても、驚きの量は変わらない。両方読むと二度おいしい。順番で損をすることは、たぶんない。そこは安心していいと思う。

 

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北方謙三『水滸伝』の基本情報

 

項目 内容
連載 1999年〜2005年/集英社『小説すばる』
巻数 全19巻(集英社文庫)+別巻『替天行道 北方水滸伝読本』
受賞 第9回 司馬遼太郎賞
続編 『楊令伝』全15巻 →『岳飛伝』全17巻
ドラマ 2026年2月15日からWOWOW・Leminoで配信。全7話。宋江役は織田裕二さん。続編の制作が決定しており2027年に放送・配信予定

 

『水滸伝』『楊令伝』『岳飛伝』の三部作は、あわせて「大水滸伝」と呼ばれる。19巻で終わりではない。

 

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北方謙三『水滸伝』と原典の違いについてよくある質問

ドラマの原作はどちらを読めばいいの?

 

北方謙三先生の『水滸伝』(集英社文庫・全19巻)だ。書店では中国古典の『水滸伝』と並んでいることがあるので、著者名を確かめてほしい。

 

 

原典を読んでいなくても北方版は読める?

 

読める。原典の知識を前提にした書き方はされていない。ただ、108人の名前と綽名を先に眺めておくと、序盤の人物の出入りが追いやすくなる。

 

 

108人は全員出てくるの?

 

北方版でも百八星は扱われる。ただ、各章のタイトルに宿星名が使われる構成なので、原典とは登場の重みが変わっている人物がいる。

 

 

どちらが面白いの?

 

好みの問題だと思う。物語の勢いと群像の賑やかさなら原典、組織と志の物語として読むなら北方版が向いていると思う。

 

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北方謙三三国志

 

水滸伝ライターおとぼけの独り言

はじめての三国志主宰 おとぼけ(田畑雄貴)

 

聚義庁の札が、どうにも頭から離れない。黒い字が赤くなる。それだけの仕掛けだ。ただ、あれは残った者に「次は自分かもしれない」と毎日突きつける装置でもある。壁を見上げるたびに、赤が増えていく。原典の梁山泊は、108人が揃った時点がいちばんの盛り上がりだった。北方版は、揃ったあとから札が裏返り続ける。同じ108人でも、こうも読み味が変わるのかもしれない。

 

 

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おとぼけ(田畑雄貴)

数々のブレストと思いつきで場を散らかした後、権限委譲と言い放ち、kawauso編集長に丸投げし去っていく。インターネットの不特定多数無限大の可能性にロマンと情熱を捧げる「はじめての三国志」の創設者。創造的で自由な発想が称賛や批判を創発し、心をつかむコンテンツになると信じている。各メンバーのパーソナリティを尊重し、全員の得意分野を活かし、補完し合うチーム作りを目指している。

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