曹操の終生のライバルである劉備玄徳、曹操が大躍進を遂げる中でこの呑気な英雄は一体何をしていたのでしょう?それを知る為に、少し時代を遡りましょう、黄巾の乱で手柄を立てた劉備は小さな安熹県の役人に任命されました。
しかし、この安熹県を公務で訪れた督郵(とくゆう)という人物は、劉備を小物と軽く見て、劉備が面会に来てもこれと会いませんでした。「なんだ、この野郎ぉ!俺の挨拶が受けられないってかぁ?」
演義では、督郵は劉備に賄賂を要求した腐敗役人で、張飛がその態度に耐えかねて鞭で叩いたとされていますが、正史では無視された劉備が自ら督郵の宿舎に押し入り、これを裸にして辱めて、鞭で二百叩きして、役人の地位を捨てて逃亡しました。
前回記事:27話:良い事が無かった曹操に勝機が訪れる!青州兵誕生秘話
客将になる劉備
なんでしょう?劉備のノ―フューチャーぶりは、、兎も角、こうして安定した職を失った劉備は、関羽や張飛と共に放浪をつづけて手柄を立てては、職を放り出すを繰り返し、流れに流れて、最後には公孫瓚の客将として落ち着きます。
当時、公孫瓚は、袁術と組んで、袁紹や曹操と敵対していました。劉備は公孫瓚の命令で、今度は徐州の陶謙の所に向かいます。曹操が一時不利になり、徐州から撤退すると陶謙は、上奏して劉備を櫲州刺使に任命しますが、その頃から陶謙は病が重くなります。
陶謙には息子の陶応と陶商がいましたが、いずれも凡暗だったようで縻竺(びじく)を通して劉備に徐州を譲るよう遺言して亡くなります。
さあ、劉備大チャンス到来です、曹操の場合とは違い、棚から牡丹餅的な幸運で徐州太守の地位が転がりこんだのです。徐州は曹操の無差別殺戮で人口が激減しているとはいえ、歴とした州です、ここに拠って立てば劉備も曹操に対抗できます。
劉備を頼りに呂布がやってくる
しかし、ここで、曹操に敗北した呂布が劉備を頼り徐州にやってきます。天下無双の豪傑を迎えて劉備は気を良くしたのか、この虎狼を迎え入れます。
それが全ての間違いでした、やがて徐州の劉備を攻めた袁術を迎え撃った劉備ですが、1カ月を経過した頃に徐州の本拠地下邳の守将だった曹豹(そうひょう)という男が呂布と通じこれを城内に入れて叛乱を起こします。
これでは劉備は堪りません、下手をすれば、袁術と呂布の挟み打ちで全滅しかねないからです。劉備は恥を忍んで、呂布に詫びをいれて和睦し小沛に入りました。そこに袁術は攻めてきますが、今度は呂布が劉備を救い、袁術は敗れて敗走し、劉備は命拾いします。
でも、小沛に駐屯している劉備は腹わたが煮えくりかえっています。
ぶちキレる劉備
「おのれ、呂布、困っているから助けてくれと言うから迎え入れてやれば人の領地を乗っ取りおって、、」
劉備は、密かに1万人という大軍を集めていましたが、呂布はこれを察知して逆に小沛を攻めます。劉備はまたもや呂布に敗れて、今度は敵同士の曹操に身を寄せるという屈辱に塗れてしまうのです。
劉備は曹操を頼りに身を寄せに行く
ところが劉備にとっては意外な事に曹操は劉備に寛容でした。
当時、李傕、郭汜の菫卓の残党から逃れた献帝を保護した曹操は、「自分こそは天運の持ち主」と得意絶頂でした。
そこで、生来の冷徹なリアリストの傾向が薄れ、王者の寛大さを見せつけようと思っていたのです。
曹操の参謀である荀彧(じゅんいく)は、「劉備は人の下に立つような器ではなく、将来は必ず敵になります面倒な事になる前に理由をつけて始末しましょう」と曹操を何度か説得しています。
「まあ待て、今は天下の英雄をわが手に集める時ではないか?ここで劉備を殺し、余の評判を落とすのは得策ではない、、」
曹操はこのように余裕綽々で劉備をどこに行くのにも連れて歩き自分専用の馬車でも隣に乗せて行くなど破格の待遇を見せます。
ところが劉備は曹操の下にありながらも献帝を蔑ろにして、自分の思うがままに操る曹操の態度に不信感を持っていました。
英雄論を語る曹操と劉備
ある時です、曹操は、劉備を連れて、景色の良い場所で食事を共にし酒を飲んでいました。酔った曹操は、得意の英雄論を劉備に吹っ掛けます。曹操「劉備殿、汝はこの世で英雄と言えば誰を思い浮かべるかね?」
劉備「はっ、冀州を抑えて公孫瓚と覇を競う袁紹殿では?」
曹操「袁紹は、見ためは立派だが、内心はケチで臆病者だ、家来が優秀だが、それを無視するようになればお仕舞いよ」
劉備「では、袁術ではありませんか?」
曹操「袁術は、策謀家で人を操る癖に、民の苦しみが分からんもうじき、離反されて孤独に死ぬだろう」
劉備が次の人物の名前を出しかねていると、曹操は真剣な表情になって言います。
「劉備殿、この世で真に英雄と呼べるのは、たった二人しかおらん一人は、この儂で、もう一人は君だ!」劉備は余りの事に持っていた箸を落としてしまいます。
曹操は、それを見て劉備が図星を指されて驚いたのだと見て劉備に野心を感じます。
雷の轟音が鳴り響く
ところが次の瞬間、雷の轟音が鳴り響いたのです。劉備はとっさに、机の下に隠れてガタガタと震えます。
「とんだ所をお見せしました、私は雷だけは苦手なのです。」
劉備が震えながら、そう弁解したので曹操は大笑いします。
「はっはっは、、いや失敬、劉備殿、誰でも苦手なモノはある、お気になさるな、、はっはっは、、」
(なんだ、とんだ見込み違いよ、雷如きが怖いとは、、フン、荀彧の助言も外れる事があるのだな、、)
曹操は内心では劉備を軽んじましたが、実は、これは劉備の芝居でした。曹操が自分にカマを掛けた事を悟った劉備は、箸を落した事を誤魔化す為に雷に怯えてみせたのです。
命拾いをした劉備ですが、現時点では、どんなに優遇されようが曹操の気分次第で命を狙われる立場に違いはありませんでした。