『三顧の礼』や『出師の表』と言った有名なエピソードに事欠かない諸葛孔明ですが、実は軍事や政治といった分野以外にも、意外な面でその才能を示したとする伝承が残されていることを皆さんは御存知でしょうか?
諸葛孔明の”発明”にまつわる伝承とは、一体?
この記事の目次
三国鼎立を成立させた天才軍師の実像と虚像
諸葛孔明に『天才的な軍師』というイメージを抱かれている方も多いと思いますが、歴史上の実在の人物としての評価は、イメージとはやや異なるようです。
歴史書『三国志』の編者である陳寿は、孔明の政治の手腕を大きく評価し賞賛していますが、一方で軍師としては『奇計を用いず、思ったような軍事的成果を上げることがなかった』と、厳しい評価をしています。
特に、蜀の最大の敵であった魏に対しては5度にわたる討伐戦(北伐)を行っていますが、遂にこれを討ち果たすことは叶わず、孔明は戦場で病死という最期を遂げています。
呉との同盟を成立させて赤壁において魏の大軍に当たらしめた外交的、政略的手腕には確かなものがあったと言えますが、軍事的才覚に関してはイメージされる孔明像とはややギャップがあるのが実情のようです。
にも関わらず、孔明に天才軍師としてのイメージが強いのは、『三国志演義(さんごくしえんぎ)』を始めとする民間説話において、その功績が誇張して伝えられたことが大きく影響しているといえるでしょう。
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羅貫中が三国志演義を作成した当時の明代について
羅貫中(らかんちゅう)によって『三国志演義』がまとめられたのは明代ですが、その原型となった『三国志平話(さんごくしへいわ)』が成立したのは元(げん)の時代。
つまり、漢民族がモンゴル民族に支配されていた時代でした。漢王朝の末裔とされる劉備玄徳とは、中国における漢民族の正統性を象徴する存在であり、彼を支えた諸葛孔明もまた、必然的に英雄として描かれたのです。
民間伝承に登場する諸葛孔明は、軍事のみならず、あらゆる事柄に秀でた天才、いわば“スーパーマン”として語られています。なかでも興味深いのは、彼がさまざまな“発明”をしたという説話が各地に残されているということでしょう。
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諸葛孔明は天才発明家?
孔明に発明家としての資質があったことは事実のようです。史書『三国志』に、孔明が発明した”木牛”と”流馬”に関する記述を見ることができます。
これは『三国志』の注釈で知られる裴松之の記述したもので、”木牛”と”流馬”は行軍の際に物資の運搬に用いられた道具であったと考えられています。
一輪車や二輪車、あるいは四輪車など諸説あり、実像ははっきりしていませんが、孔明の多彩さを示す実例であることは確かでしょう。
民間伝承では、木牛や流馬の他にも孔明が発明した逸話
民間伝承では、木牛や流馬の他にも、孔明が発明したとされる品々の逸話が残されています。
特に有名なのは、孔明が蜀の南部に勢力を持っていた蛮族の討伐を行った際に発明したとされるものでしょう。有名なところでは『饅頭(肉まん)』があります。
蛮族の祭壇について
当時、蛮族たちには人間の生首を祭壇に捧げ、祈祷するという風習がありました。蛮族を屈服させた孔明はこの風習のことを聞き及ぶと『残酷だから』という理由でこれを禁止し、代わりに豚や羊の肉を小麦粉の皮で包み、人の顔のかたちにしたものを備えるよう、指導したと言われています。この供え物は『蛮頭』と呼ばれましたが、後に『饅頭』として一般的に広まったと言われています。
南伐に際してカブの一種を発見した孔明
また、これは発明品ではありませんが、孔明はこの南伐に際してカブの一種とされる野菜を見出し、これを広めたとも言われています。そのことから、この野菜は『諸葛菜(しょかつさい)』と呼ばれています。
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蛮族達を教育するために用いられた紙芝居
教育を受けていない蛮族たちを教育するために孔明が用いたとされる発明品が『紙芝居』です。
孔明は字を読めない彼らの為に、さまざまな絵を描いた板を用意し、これを蛮族たちの教育に用いたとされています。これが後の『紙芝居』へと変化していった……というわけです。
司馬仲達の軍勢に包囲された孔明は救援を乞うために使用した天灯
中国やタイには竹の骨組みに紙を張って中に火を灯し、空に飛ばす『天灯(てんとう)』と呼ばれるものがあります。現代では節句の祭などで使われる儀式道具ですが、元は軍事用の通信手段として使われていました。その発明者とされているのが諸葛孔明です。
司馬仲達の軍勢に包囲された孔明は救援を乞うため、カゴに紙を張ったものを空に飛ばし、これが後の天灯の原型とされているのです。他にも、諸葛孔明の発明に関する逸話は存在します。それは孔明が今もなお、英雄として尊敬を集めているということに他ならないのかもしれませんね。