『三国志』に登場する智謀に長けた人物といえば、諸葛亮や周瑜、司馬懿などなど様々な人物の名を挙げ連ねることができますが、彼らはその才能を花開かせる機会に恵まれた幸運な者たちばかり。
三国時代には彼らと同じか、それ以上の力を秘めていながら、つぼみのまま花を咲かせず枯れてしまった智謀家もいました。そんな不運な智謀家の中に名を連ねているのが沮授、その人です。
韓馥にシカトされる
冀州に生まれた沮授は青雲の志を胸に秘めた優秀な若者でした。彼の才能は周囲にも高く評価され、今でいうところの県知事にあたる県令までトントン拍子に出世していき、冀州牧であった韓馥にも見出され、その側近として仕えるまでに至ります。
しかし、その頃にはもう漢王朝は董卓に乗っ取られて形骸化しており、群雄たちがひしめき合って割拠する乱世に突入していました。そんな乱世の荒波は冀州にも押し寄せます。なんと反董卓軍として共に戦ったはずの袁紹が「冀州を寄越せ!」と迫ってきたのです。臆病者の韓馥は、袁紹の勢いにビビって震え上がり、冀州を袁紹に譲ろうと考えます。それに待ったをかけたのが、沮授をはじめとする臣下たちでした。
そもそも袁紹は食料を冀州に依存しているという不安定な状況から逃れたいがために強く迫ってきているだけで、兵力を比べてみても袁紹に負ける要素は1つもないと説得します。ところが、そんな説得もビビりあがって白くなっている韓馥には馬耳東風。結局沮授たちの説得も虚しく、韓馥は袁紹に冀州を譲ってしまったのでした。
袁紹にも結局シカトされる
韓馥が袁紹に冀州を譲ると、沮授の主君も自動的に袁紹にすげ替えられました。沮授は新しい主君のもとで心を新たに頑張ろうと決意し、袁紹に後漢王朝復興までの道のりを説きました。韓馥から譲られた冀州と青州、幽州、そして并州を鎮めた後に長安に帝を迎えに行き、董卓によってめちゃくちゃにされた洛陽の宗廟を復興するというプランです。
袁紹は沮授のこのプランを喜んで受け入れ、沮授にその指揮をとらせました。その結果、袁紹は4つの州を鎮めることに成功しています。ところが、よりによってこの計画の大切なところ、その最終目標が沮授と袁紹の両者の間で食い違っていたようで…。
沮授は漢王朝復興を目指していたのですが、袁紹はそうではなかったらしく、「献帝を迎え入れるなんて嫌!董卓が立てた献帝なんて本当の皇帝じゃないやい!」と計画の途中で渋り始めたのです。
沮授はそれでも4州を平定する頃には袁紹もわかってくれるだろうと思っていたのですが、結局その思いが通じることはありませんでした。それどころか、沮授の言葉は袁紹にますます届かなくなっていきます。4つの州を平定した袁紹は曹操と激突するのですが、これに対して沮授が持久戦に持ち込むべしと説いたのに、袁紹は短期決戦案を採用。
その上対立案を出した郭図にあることないこと言われ、軍を指揮する権限を縮小されてしまいます。また、袁紹が自分の長男を青州刺史に任命した際には、沮授が「身内贔屓は後の禍根となりますよ。」と諫めたものの、袁紹に知らん顔をされてしまったのでした。
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曹操に見出されるも…
いよいよ天下分け目の官渡の戦いが起ころうとしていた頃、沮授は自らの運命を悟ってか、その財産を一族に分け与えて歩きました。負け戦になるであろうことを知りながらも、沮授はダメ元で袁紹に忠言を繰り返しました。それでもやはりその言葉はことごとく聞き入れてもらえません。
その結果、袁紹軍は序盤で顔良・文醜の2人の猛将を失ってしまいます。沮授はこのことにショックを受けてしまったのか、病気を理由に指揮官を辞退してしまいました。それでも沮授は曹操軍の兵糧不足を見抜いて持久戦に持ち込むように説いたり、守備に力を入れるように訴えたりして袁紹軍をサポートしようと尽力します。
ところがやっぱり袁紹が沮授の言葉を聞き入れることはなく、袁紹軍は大敗を喫してしまったのでした。その後、沮授は曹操軍に生け捕られます。曹操は沮授のことを古くから知っており、沮授に自分の配下となるように説得しましたが、沮授は頑として首を縦に振りません。曹操はそんな彼の心変わりを気長に待とうと考えましたが、脱走を試みたために結局沮授は処刑されてしまいました。
三国志ライターchopsticksの独り言
沮授は最期のときまで袁紹の配下として生きたかったのでしょう。しかし、1人の主君に仕え続けるという美徳を重んじたが故に、恵まれない人生を歩むことになってしまいました。沮授にとっては納得のいく人生だったのかもしれませんが、もしも曹操に仕えていたら…と考えるとその死を惜しまずにはいられません。
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