「三国志」終盤の主人公的存在といえば、蜀漢の丞相諸葛亮です。
そして、その諸葛亮の宿命のライバルとも言うべき存在が魏の軍師である司馬懿でしょう。
この記事では、北方謙三先生の『三国志』シリーズ(以下、「北方三国志」とします。)における司馬懿がどのような人物なのか、解説していきたいと思います。
※ネタバレを含む内容です。ご注意ください。
「第二世代」の名コンビ:曹丕と司馬懿
「北方三国志」の司馬懿は、他の作品と同様に智謀に長けた魏の軍師として登場します。しかし、司馬懿の存在が本格的に日の目を見るのは作中中盤以降になります。
一代で魏の基礎を打ち立てた英雄である曹操には既に荀彧という腹心の軍師がおり、曹操の時代には、陰気な性格の司馬懿はあまり表舞台に立つことはありませんでした。
しかし、荀彧が曹操との軋轢と憂悶のうちに死に、曹操も老境に差し掛かった頃、司馬懿が本格的に頭角を現します。
司馬懿は曹操の息子である曹丕の部下として活躍しはじめ、曹丕の軍師として曹操の後継者を巡る争いに身を投じていきます。
曹丕は、英雄曹操の息子として傲岸不遜な性格でありながら、戦の天才である父・曹操に自らの才能が及ばないことをコンプレックスに考えていました。
そんな曹丕と、陰気で控えめな性格でありながら、抜群の軍才を持つ司馬懿は、一見正反対の性格でありながら、絶妙な名コンビとして魏を盛り立てていくのです。
曹操と荀彧のコンビを魏の「第一世代」とすれば、曹丕と司馬懿のコンビは魏の「第二世代」と言えるのではないでしょうか。
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司馬懿はドMだった!?
「北方三国志」の司馬懿は、他の作品とは決定的に異なる独特なキャラクター設定がなされています。それは、司馬懿がドMだという点です。そうした司馬懿の性格が顕著に現れるのは、蜀漢の諸葛亮との戦いの中においてです。
「北方三国志」でも諸葛亮は、作中最強クラスの才能を持った天才軍師で、その軍才は司馬懿をはるかに上回ります。
一連の戦いの中で司馬懿は、蜀漢の北伐軍を率いる諸葛亮には基本的に敗れ続けます。諸葛亮の計略にはまり、自らが窮地に立たされることも多々あります。そんな時、司馬懿は自らの命の危機を悟って、度々失禁してしまうという描写がなされています。
しかし、そのような旧知の中でも司馬懿は、自らの知略をはるかに上回る諸葛亮の鮮やかな計略にはめられることをどこか望んでおり、追い詰められることをどこか楽しんでいるところがあるのです。
また、ある時には諸葛亮との間に陣地を築いてにらみ合いを続けていた司馬懿の下に、諸葛亮から女物の衣服が届けられます。これは、司馬懿を侮辱することで挑発し、戦場に引きずり出そうという諸葛亮の計略でした。
これを見た司馬懿は怒るどころか、諸葛亮の挑発に興奮し、「もっと侮辱してくれ」と言ってしまうのです。こうした司馬懿の異常ともいえるマゾヒストな性格こそが、「北方三国志」における独特な司馬懿像を形作っていると言えるでしょう。
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司馬懿の意地と野望
ドMな性格がクローズアップされがちな「北方三国志」の司馬懿ですが、そんな司馬懿にも確固たる信念があります。それは、自分を引き立ててくれた主の曹丕への忠義です。陰気な性格で曹操に敬遠されていた司馬懿を軍師として重用したのは曹丕でした。
そんな曹丕や曹丕の建国した魏王朝を司馬懿は懸命に盛り立ててきたのです。しかし、曹丕が若くして亡くなると、後を継いだ曹叡と司馬懿との間には次第に溝ができていきます。
戦下手でありながら、父・曹操の覇業を受け継ぎ、天下統一を目指して蜀漢や呉との戦いに全力を傾ける曹丕と異なり、宮殿の造営などの無用な土木事業を行い、贅沢にふける曹叡に対し、司馬懿は次第に愛想をつかすようになっていきます。
そして、作中最終盤において司馬懿は、帝位の簒奪をほのめかすようになっていきます。司馬懿の主であった曹丕が後漢を滅ぼしたように、奢侈にふけり、民を苦しめる曹氏の支配する魏王朝を滅ぼすという野望を司馬懿が抱き始めるのです。
しかし、「北方三国志」は他の三国志作品のほとんどと同じように、諸葛亮の死によってその幕を閉じます。司馬懿の野望がどうなったか、については読者の想像に任せるということなのかもしれませんね。
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三国志ライター Alst49の独り言
いかがだったでしょうか。「北方三国志」の司馬懿ははっきり言ってかなり特殊なキャラクターとして描かれています。司馬懿のファンからすれば、「こんなはずじゃなかった」と思うかもしれません。
三国志における司馬懿は、諸葛亮の北伐軍に何度も敗れながら、最終的には北伐の成功を阻んだ名将です。「北方三国志」のドMな司馬懿は、何度敗れても諸葛亮に立ちはだかろうとする司馬懿像に対する、北方先生なりの解釈と言えるのではないでしょうか。
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