もし夷陵の戦いで劉備が勝っていたら三国志は後世に残らない?「劉備が負けるのがやはり正しかった」と導いてみる

2022年3月21日


 

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敗れる関羽雲長

 

魏呉蜀による三国鼎立が成り立った直後のこと。孫権(そんけん)率いる呉軍がいきなり荊州(けいしゅう)を攻撃し、英雄関羽(かんう)を殺して、蜀から荊州を奪取するという展開が起こります。

 

ブチギレる劉備

 

それに対する蜀側の反撃が、高名な「夷陵(いりょう)の戦い」。

 

夷陵の戦いで負ける劉備

 

この戦いで呉に惨敗した蜀は、荊州を完全に手放さざるを得なくなった上、大敗のショックを受けた君主の劉備(りゅうび)が崩御してしまうという、さんざんな結果を迎えます。

 

キレる劉備

 

劉備びいきの三国志ファンなら、「夷陵の戦いでもし蜀が勝っていれば」と強く思うところでしょう。

 

呉軍が弱いと勘違いして進軍を進める馮習と劉備

 

でも、ここでふと、考えてみました。もし夷陵の戦いで劉備が勝っていたとしたら、その後の三国志はどのような展開になっていたのでしょうか?

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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戦略的には悪手?諸葛孔明も反対していた夷陵戦

三国志の主人公の劉備

 

まず夷陵の戦いの、そもそもの開戦動機について、整理しましょう。じゅうぶんに蜀側に大義があるように思えます。なにせ荊州は、もともとは劉備軍の重要拠点。劉備が荊州に入る前、荊州の太守は劉表(りゅうひょう)でしたが、その劉表からも劉備は(いろいろありましたが)一度後継者に指名されているので、スジもちゃんと通っています。

 

劉備

 

その荊州が呉に奪われたわけですから、

・戦略的な重要拠点を取り返す

・側近中の側近であった関羽の仇討ちをして天下に知らしめる

という二つの意味合いがありました。

 

孔明 悲しい表情

 

劉備の開戦動機は成立しており、「劉備に勝ってほしい」という感情も移入しやすいところです。ところが、実はかの諸葛孔明(しょかつこうめい)は、この開戦に反対でした。

 

考える諸葛亮孔明

 

孔明にしたって、荊州を奪われたことは致命的な打撃と考えていたはずですが、それを取り返そうとするのは論外、という意見です。なぜでしょうか?

 

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関羽

 

 

 



どちらが勝っても大勢に影響なし?むしろ曹丕を利してしまった夷陵の戦い

韓信vs孔明

 

諸葛孔明の懸念を理解するためには、「夷陵の戦いに劉備が勝った」シナリオを空想して、そこで劉備が何を得ることができたかを、考えてみるのがいいでしょう!

 

勝利した劉備の成果は以下となる筈です。

・荊州を呉から取り返せる

・関羽の仇を討ったことで、劉備自身は気持ちが少し晴れるかもしれない

 

関羽の呪いで殺される呂蒙

 

後者は、あくまで、「かもしれない」です。なにせ関羽を直接襲撃した呂蒙(りょもう)は病死していますし、荊州を奪回したところで孫権自身は生きているわけです。

 

キレる劉備になだめる黄権

 

それが「仇討ち」としてどれだけ劉備の心を慰めたでしょうか。意外なほどに、「勝ってみたけど、むなしい」結果ではないでしょうか。

 

二刀流の劉備

 

肝心の「荊州を呉から取り返す」という点も、戦略的には危険です。呉の立場から見れば、荊州は何が何でも欲しい土地であり、たとえ夷陵の戦いに劉備が勝ったとしても、数年後にはまた大軍を編成して襲い掛かってくるに違いありません。

 

つまり、もし劉備が夷陵の戦いに勝っていたら、以下のような展開になったのではないでしょうか?

・荊州の帰属をめぐって呉と蜀の泥沼の十年戦争が始まり、三国時代のメイン戦場は荊州になってしまう(曹丕(そうひ)が大喜びする!)

・関羽を失った心の痛手は癒されず、けっきょく劉備も寿命を迎える

 

意外なほどに、いいことがありませんし、「漢王朝の復興」というそもそもの劉備の目的からはグンと遠のいてしまいました。

 

呉の諸将を論破する諸葛亮孔明(セリフなし)

 

こう見ると、勝ったとしても蜀にとっては何ともむなしい。「ここは呉と和解して、荊州などはくれてやり、むしろ魏との決戦だけに集中しましょう」という孔明の意見は、戦略家としてはとてもリアリスティックで、妥当なものだったのです!

 

朝まで三国志 劉備

 

ただし、それで納得しなかった劉備は、それはそれで人情家「劉備らしい」ともいえるので、この夷陵の戦いをめぐる経緯、なかなか「劉備の判断が悪かった」と決めつけるのも乱暴なところです。

 

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呂蒙

 

 

まとめ:三国志ファンから見れば「夷陵の戦い」は必然の戦いだった?

挑発する諸葛亮孔明

 

しかし、孔明の戦略家としての判断からも、劉備の人情家としての判断からも超越した、もうひとつの、「夷陵の戦いの意味」というものがあります。まさに我々、後世の三国志ファンから見たときの、夷陵の戦いが持っている重要性です。

 

劉備とともに呉を攻めまくる馮習

 

そうなのです。「夷陵の戦い」が起こり、かつ、そこで劉備が負けたからこそ、『三国志』はあんなにもドラマティックなのです!

 

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夷陵の戦い

 

 

三国志ライター YASHIROの独り言

三国志ライター YASHIRO

 

そもそもこの「夷陵の戦い」は、蜀と呉がめずらしく総力戦でぶち当たったガチンコ決戦。「三国志」というからには、リーグ戦の如く、・呉・蜀の三か国それぞれが一度は「ガチンコ勝負」をやってみせてほしいものですが、

 

赤壁の戦い

 

魏対呉では、赤壁(せきへき)の戦いが、魏対蜀では、諸葛亮の北伐があり、もうひとつの組み合わせ、「蜀対呉」については、夷陵の戦いでちゃんとガチンコ勝負をやってくれているわけです。

 

策略が得意な呂蒙

 

もしこの戦いがなかったら、「三国志っていうけど、そういえば、蜀と呉の間には総力戦って発生していないよね?せいぜい呂蒙が関羽を奇襲したくらいだよね?」ということになり、「三国志」というタイトルにも不完全燃焼感が出てしまっていたでしょう。

 

ポイント解説をするYASHIRO様

 

ちゃんと蜀対呉の組み合わせ試合も入っているからこそ、三国志は後世に至るまでの人気の物語となっているのだ!

と考えると、三国志ファンとしては「夷陵の戦いは必然だったのだ!」と言いたくなりますね。

 

三国志を楽しく語るライターYASHIRO様

 

もしかしたら、「夷陵の戦い」の最大の功績は、三国時代を歴史物語として面白くしてくれたこと、それによって劉備・孫権・曹操という三キャラクターの名前を歴史上で不滅のものにしたこと、なのかもしれません。

 

 

三国志演義_書類

 

しかもそれが百パーセントのフィクションではなく、実際に「赤壁の戦い」「北伐」「夷陵の戦い」というリーグ戦のような「組み合わせ戦」が史実に沿っているという点。これが三国志をここまで魅力的な存在として現代に伝えてくれる秘密ではないでしょうか!

 

馬謖に重要な仕事を任せるなと孔明に伝えて臨終を迎える劉備

 

とても悪いのですが、気の毒なのですが、劉備があそこで負けてくれたことは「必然」と言いたくなるほど、後世の我々の愛情を勝ち取るにはバッチリの運命だったのでした。

 

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if三国志

 

 

 

 

 

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とにかく小説を読むのが好き。吉川英治の三国志と、司馬遼太郎の戦国・幕末明治ものと、シュテファン・ツヴァイクの作品を読み耽っているうちに、青春を終えておりました。史実とフィクションのバランスが取れた歴史小説が一番の好みです。 好きな歴史人物: タレーラン(ナポレオンの外務大臣) 何か一言: 中国史だけでなく、広く世界史一般が好きなので、大きな世界史の流れの中での三国時代の魅力をわかりやすく、伝えていきたいと思います

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