こんにちは、三国志ライターのYASHIROです。いきなりですが私は三人男兄弟の末っ子です。そんなにいい思い出はありません。
思い出すことといえば、布団の上でバックドロップを受け病院に担ぎ込まれたこととか、
竹刀で脳天を急襲され頭部からの出血で気絶したこととか、まあ、そんなあたりです。
そんな私が、アメリカのサイト、psychologytoday.comで見つけた心理学の論文。
・出生順位が職場内の影響力に左右されるか?(Birth Order in the Workplace)
三人兄弟の長男・次男・末っ子は、職場に出てからの働き方に違いが出るのか、の研究です。
なかなか面白い研究ですが、いちばん注目に値するのは、
「三人兄弟の末弟こそ、人の意見をよく聞き、調整力に長けているので、リーダー向きである!」という結論。
言われてみれば、「三人兄弟(姉妹)の末っ子が超絶優秀で、兄貴(姉貴)二人はぶっちゃけボンクラ」というパターンは、古今の文学や映画でけっこう思いつきますね。
『ゴッドファーザー』シリーズのマイケル・コルレオーネと、二人の兄。
シェイクスピア『リア王』の末娘コーディリアと、二人の姉。
『さんびきのこぶた』のレンガハウスの末弟と、二人の兄。
フムなるほど、この論文、なかなかあたっているのかも!
でも、もうひとつくらい、実例が欲しい。
・・・ということで、この理論が『三国志』にもあてはまるか、やってみることにしました!
そして三国志でもっとも有名な三兄弟といえば、あの方々だろう、ということで・・・。
桃園の義兄弟で、実は末弟扱いの張飛こそが、一番リーダー向きということ?
この証明ができるか、やってみましょう!
まずは羅貫中の『三国志演義』から、ざっと張飛の活躍場面を思い出していきましょう。
・いろんな勇将と一騎打ちで戦っている。相当な相手と戦っても最低でも引き分け。
たいていの相手には完勝。この勝率の高さはまず間違いなく彼の長所!でも、リーダーシップの話とはいえないなあ。
・「一人で一万人の兵士を相手にできるやつだ」と程昱に言わしめた。
あの冷静沈着な程昱さんが言っているのだから、お世辞や皮肉ではないでしょう。でもこれもリーダーの事例ではないなあ。
・長坂の戦いで、劉備軍壊滅の危機を、一騎で敵軍を一喝して食い止めて救った。
凄いことなのですけど、これもリーダーの事例ではないなぁ。
それでは彼が劉備から「お前が責任者をやれ」とリーダーを任命されたケースを思い出していきましょう。
・劉備の拠点である徐州の留守番を命じられた。酒によって油断しているところに呂布の奇襲を受け簡単に奪われた。劉備の家族もこのとき人質になった。
うーん。どうしてもこの事件のインパクトが強い。劉備が優しかったからよかったものの、ふつう、一発でクビになるところの大失態ですからね。
ボスが諸葛亮孔明だったら、この一回のアウトだけで、泣いて斬られていたかもしれません。
・漢中をめぐる戦いで、部下たちを巻き込んで酒盛りをして敵を油断させ、城にこもっていた張郃軍をまんまとおびき出し、乱戦に持ち込み圧勝した。
お、これがあったか!これはいい事例ですね!
過去の汚点を逆手に取り、酒盛りをして遊んでいるフリをして、「おお、張飛が酒乱バカというのは本当なんだな」とホイホイ出てきた敵を返り討ちにした、と。
本人の成長も見て取れる、好エピソードですね。
それに「これは相手をだますための酒盛りなんだから、本気で飲むなよ!」と部下たちを統制していたとなると、リーダーシップもちゃんと発揮できていた、ということになるのでは?
張飛がリーダーとしてもちゃんと成長していた、と考えさせる、ひとつの良い事例ですね!
張飛のリーダーとしての評価を、今度は正史から、さらにおさらいしましょう!
そうはいっても『三国志演義』は物語として脚色が激しいので、念のため『正史』のほうもチェックしておきましょう。
パラパラと、張飛伝のところを開いてみて、と。。。
・・・ん。
・・・んん?
漢中をめぐる戦いで張郃軍を撃破したとは書いてあるが、「酒盛りで相手をだました」云々のエピソードが書かれていない!演義で、ほとんど唯一「実は張飛ってリーダーシップあるのかも?」と思わせた「偽装酒盛り作戦」が、正史のほうで実在を否定されてしまいました。
張飛のリーダーシップを弁護するつもりだった今回のテーマにとってあまりに手痛い。他に、正史には、張飛のリーダーシップに関する記述があるか、探してみましょう。
・「張飛は、目上の人には敬意をもって接していたが、下の者にあわれみをかけるところがなかった」
おお、いきなり、リーダー像としては厳しい記述がありますね。
・「張飛は毎日、兵士を鞭でたたいている」
おお、体罰が日常化していたのですね。
・「部下を処刑で殺しすぎた」
・・・えー!これは・・・もはや決定的ではないですか!
この一文があるだけで、少なくとも私は、タイムスリップで蜀軍に入ったとしても絶対に張飛隊に配属されたくない!
三国志ライターYASHIROの独り言
こうなってくると、最初に紹介した「末弟こそリーダー向き」云々の話も怪しくなってきてしまいました。
もう一度、くだんの論文を読み返してみます。
なぜ「末弟はリーダーに向いているのか?」の理由として、論文であげられていたのは、
・末弟は他人のこころを読むセンスに長けている
・末弟は相手がどうすれば働きやすいかを考えることができる
・末弟は癒し系である
・末弟は誰かの助けになることが好き
・末弟は物腰が柔らかく、話しかけやすい
・・・結論、少なくともこの理論は張飛にはあてはまらないことが判明いたしました。
そもそも張飛をサンプルにしようとしたのが、間違いのもとだったのかもしれません。
誰か他に、『三国志』世界に、有名な「三兄弟」はいないでしょうか?
・・・あー、思い出しました!
他にも重要な三兄弟が!
・・・って、末弟の張梁の登場が少なすぎて、有能だったか否か分析不能(泣)!
「張梁が好きだ!」という稀有な趣味の方!
ぜひ、このテーマを深めてみてくださいませ!
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