共に反董卓軍として立ち上がり、のちに官渡の戦いでぶつかり合う曹操(そうそう)と袁紹(えんしょう)ですが、彼らは若者の頃、交流がありました。
宋の時代に編纂された、後漢から東晋までの逸話集、『世説新語』には、二人の面白いエピソードがのっています。
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この記事の目次
花嫁泥棒
曹操と袁紹は、とある結婚式が行われている家に忍び込みました。夜になると、「泥棒だ!」と叫んで、家の人たちを混乱させ、その隙に花嫁をさらって逃げるのです。ところが逃亡中、袁紹がいばらの茂みに落ちて、身動きが取れなくなってしまいました。すると曹操はこう叫びました。
「泥棒はここだ!」
袁紹は慌てます。慌てて、火事場馬鹿力が出たのでしょう。茂みから抜け出して、無事に逃げおおせることができました。……なんですかこのエピソード。すっごい萌えます!(私が)
これは書けということですね!?書いてしまいますよ。『明珠新語』(造語)以下、妄想小説なので、閲覧注意です。
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〈花嫁は貴公子と奸雄に略奪される〉*閲覧注意
赤いろうそくの炎が、赤銅色の蓮型をした香炉を照らす。もったりと白い煙が立ちのぼり、青い帳の下ろされたこの部屋につややかな香りを充満させている。(もうすぐ、夫となる方がいらっしゃる……)
花嫁は静かにためいきをついた。結婚とは、親が定めるもの。たとえ心に想う人がいたとしても、それは一生胸に押し込めておくことしかできない。
(あの方のようにとは言わないわ。けれどせめて、夫となる方が、優しい人ならいいけれど)
もう一度ため息をついたとき、にわかに外が騒がしくなった。立ち上がり、帳に耳を当てて、外の様子をうかがってみる。
「泥棒がいるぞ!」
今宵はめでたい婚礼の宴席。宴の行われている正殿や前庭には、玉石で龍をかたどった置物や、秘色の陶器など、高価な装飾品が溢れている。不埒者は、それらの宝物を狙ってこの屋敷へ入り込んだのに違いない。
(どうしましょう)
このままここに潜んでいるべきなのか、出ていくべきなのか。答えが出せずにたたずんでいると、何者かの足音が近寄ってくるのが聞こえた。
(まさか、泥棒がこっちへ来るの?)
花嫁は恐ろしさのあまり、床にへなへなと座り込んだ。そこへ、青い帳を波のように揺らめかせて、人影が現れる。
「小姐(シャオジエ *お嬢さんの意味)、ここか!?」
そこに立っていたのは、まるで花婿のような赤い頭巾を巻いた男だった。恐ろしさに頭を抱え、石のように身を小さくしていると、ふっという笑い声が降ってきた。
「俺だよ。孟徳(もうとく*曹操の字)。顔を上げて」
花嫁は跳ね上がるように顔を上げる。目の前の男は、目深につけていた赤い頭巾を剥ぎ取った。見知った精悍な顔が現れ、花嫁は驚愕する。
「孟徳? どうしてここに」
「君が他の男の花嫁になるって聞いてね」
「で、でも、さっき泥棒が」
孟徳は不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、あれね。本初(ほんしょ*袁紹の字)も来ているんだ」
「ええっ、本初もここへ!?」
「そ。二人で、大切な宝物をいただきに来たってわけ」
「そんな。あなたたちが、泥棒みたいな真似をするなんて……」
孟徳は遠慮のない態度で青蘆に踏み入り、花嫁の真紅の袖を取った。花嫁は身をよじって抵抗する。
「どういうつもり!? 私を人質にするの?」
「人質? 人聞きが悪いなあ。俺をなんだと思っているやら」
「……あなたは〈乱世の奸雄〉、でしょう」
花嫁の指摘に、孟徳はその眼差しに鋭い光を宿した。
「――そう、俺は乱世の奸雄。欲しいものはすべてこの手に入れる。
手始めに、君を」
「えっ」
聞き返す間もなく、孟徳は花嫁を抱き上げた。まるで伝国の玉璽でも守るように、胸にしかと抱きとめ、青蘆を出る。
「孟徳! 無事に小姐を連れ出せたのですね」
「本初か。そっちはどうだ」
「うまく巻いてきました。西側の垣根の低いところから逃げましょう」
孟徳に抱えられていた花嫁は、はっとして顔を上げた。
「本初、あなたまで……」
常日頃、わずかな隙さえなく整えられている本初の衣装は、今はあちこち破れて、上質の絹は無残なほどに汚れてしまっている。それでも、彼のまとう生来の高貴な雰囲気は消えることはなく、本初は貴公子然とした面持ちで花嫁に向かう。
「あなたを救うためなら、たとえ火計の火の中、長江の水の中、
いといませんよ」
本初はつややかな笑みを向けると、すっと天を見上げて真面目な表情に切り替わる。
「雲居に隠れた月がもう間もなく現れます。急ぎましょう」
つづく(嘘です)
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