220年、乱世の奸雄、曹操(そうそう)の死を受けて
息子の曹丕(そうひ)が跡を継ぎ、魏王(ぎおう)に即位しました。
疑り深い曹丕は、同母弟の
曹彰(そうしょう)、曹植(そうしょく)、曹熊(そうゆう)らの
動向が気になって仕方ありません。
曹丕は弟達を誅殺する
父曹操の葬儀に兵を連れて現れた曹彰と緊張状態に陥ったり、
葬儀を欠席した曹熊を咎めて、死に追いやったりします。
また、曹植をも殺そうとします。
このように、曹丕の即位には、最初から不穏な影がつきまとっていました。
架空の動物が現れたと報告
その年、
鳳凰(ほうおう)が現れた、との報告が上がりました。
すると、申し合せたように各地から、
「うちの村には麒麟(きりん)がやってきただ!」
「黄龍(こうりゅう)が空から降りてきただよ!」
との声が聞こえてきます。
鳳凰、麒麟、黄龍はどれも、想像上の動物です。
めでたいことがあると人々の前に現れる、という言い伝えがあるので
曹丕はこれをもって、
「俺が魏王についたからだネ。もしかして、皇帝になった方がいいのかも!」
と結論付けます。
……言ってしまえば、「やらせ」です。
自分の即位を正当化するために、うその報告をさせたわけです。
献帝は帝位を曹丕に譲る事を決意
曹丕に仕える40人の文官たちが、献帝(けんてい)に詰め寄ります。
「曹丕さまに皇帝位をお譲りなさい!」と。
献帝が抵抗すると、今度は兵士たちがものものしい装いで取り囲みます。
献帝はがっくりとうなだれ、
ついには曹丕に帝位を譲ることを承諾しました。
とはいえ、曹丕も、無理矢理帝位を簒奪したと思われたくないので、
体裁を整えようとします。
関連記事:献帝(けんてい)とはどんな人?後漢のラストエンペラーの青年期
関連記事:献帝(けんてい)とはどんな人?後漢のラストエンペラーの成人期
関連記事:【後漢のラストエンペラー】献帝の妻・伏皇后が危険な橋を渡った理由!
遂に献帝から皇帝位を譲り受ける曹丕
受禅台(じゅぜんだい)という儀式の台をつくり、
そこで、人々が見守る中で、献帝から皇帝位を譲り受けるという形をとります。
受禅台の上で、
献帝は曹丕に玉璽(ぎょくじ)を渡しました。
玉璽は皇帝の証ですから、これによって、曹丕は皇帝となりました。
満面の笑みを浮かべた曹丕は、
天地の神々に拝礼をします。
そのときです。
一陣の風が台上を吹き抜けました。
台上に赤々と灯されていた火が、突然すべて消えてしまいます。
ざっと暗雲が立ち込め、辺りが真っ暗になりました。
真冬のような冷たい空気が曹丕を突き刺し、
全身が氷で覆われたように凍えて、がたがたと体が震えました。
受禅台の下で曹丕を見守っていたはずの人々の姿が忽然と消えてしまっています。
目の前にいたはずの、献帝の姿も見えません。
関連記事:秦の始皇帝が造り出した伝国の玉璽
関連記事:二人の英雄を破滅に追いやる魔性の玉璽
関連記事:孫堅が伝国の玉璽を手に入れたわけ
曹丕の黒い影が近寄ってくる
かわりに、ひたひたと黒い影が近寄ってきます。
影はひとつではありませんでした。
イモリのように地を這い、
おぞましい動きでじわりじわりと曹丕を包囲していきます。
凍えるほど寒いのに、
曹丕は体中の汗腺から汗が拭き出しました。
それは足元に池のようにたまり、
まるで赤黒い血の海でおぼれているような錯覚さえしました。
恐怖のあまり、
とうとう曹丕は失神してしまいます。
許都(きょと)の宮殿に寝かされた曹丕は、
目覚めても、自分の周りを妖怪たちがうごめいているのを見て、
何度も何度も気を失います。
曹丕が遷都した理由
曹丕の帝位簒奪は、こうして天からの咎めを受けたのです。
「こんなところには住んでいられないよ~、ブルブル!」
というわけで、曹丕は遷都を決意します。
以降、許都は許昌(きょしょう)と改称されました。
曹丕は洛陽に宮殿を建て、移っていきました。