三国志は正史と演義ばかりではありません。
長い歳月の中で、民衆によって語られ続けてきた民話の中にもあります。
日本人が桃太郎や浦島太郎に親しむように、中国人は関羽(かんう)や
孔明(こうめい)、張飛(ちょうひ)の出てくる民話に親しんできたのです。
その話は荒唐無稽でありながら明瞭で分かりやすくユーモアに満ちています。
今回は、そんな民話から、羅貫中(らかんちゅう)にブチ切れた関羽を紹介しましょう。
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この記事の目次
売れっ子、羅貫中、関羽を使ったエロ話を思い付く
三国志演義の作者、羅貫中は、毎日、次に出す原稿に追われていました。
次の舞台は、劉備(りゅうび)の二人の妻を保護して、
やむなく曹操(そうそう)に降った関羽が、
「曹操に降るのではない、漢に降るのだ」という苦しい理屈で、
一時曹操の配下になるという件です。
そこで、羅貫中は、素晴らしいアイデアを思い付きます。
「そうだ、こうしよう!曹操は関羽を手放したくないから、
わざと関羽と劉備の夫人を同じ部屋に置いて間違いを起させようとする。
そうして、主君の妻に手を出せば、関羽も、おめおめと劉備の下へは
戻れなくなるじゃないか!」
羅貫中の筋立ては、こうです、、
真っ暗な部屋には、一本の蝋燭が灯っていて、
そこで劉備の夫人二人が静かに針仕事をしている。
関羽は、その近くに座って春秋を読んでいるが、
薄幸の夫人の透き通るような肌が視界に入り、
それを見るともなく見ている間に、憐憫の情が湧き
何だか胸中がもやもやし、下半身の青龍偃月刀も落ち着かない。
劉備の夫人達も、空気を察して針仕事の手を止め、
戯れに関羽のヒゲを優しく撫ではじめた
ヒートアップする羅貫中の前へ関羽が出現!
筆に熱がこもる、ノリノリの羅貫中ですが、
そこにいきなり、
「待ってくだされ!羅貫中殿っ!」と男の声が響きます。
羅貫中がびっくりして視線を上げると、そこには、
緑色の戦袍に黒いヒゲを腰まで垂らした赤ら顔の豪傑が立っています。
まあ、説明不用ですが早い話が関羽だったのです。
羅貫中が驚いて腰を抜かしていると関羽は赤い顔をさらに
赤くして懇願します。
「羅先生! どうか、今書いている話だけは止めてくだされ!
拙者は女嫌いで通っている身、主君の妻とそんな仲になるとは
例えフィクションでも、どうしても承服できませぬ」
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羅貫中は、関羽を説得しようとしますが・・
「いやいや、関羽様、誤解で御座います!
そんなウヒョ!な事になどなりません。
あなたは堅物ゆえに、チラッとそう思うだけで思い止まります」
羅漢中は、恥ずかしがっている関羽の説得にかかります。
「あーもう、無理無理無理!!そんな女なんて汚らわしい
それがしは、忠義一筋、主君劉備一筋で御座ればッ!」
長いヒゲを左右にブンブン振って頑なに拒否する関羽
「そこを何とか! 堅物のあなたに少し色っぽい話があるだけで
読者はドカーンと受けますし、やらしい話、版元も大儲けなのです」
売らんかな精神で関羽を何度も説得する羅貫中に、
とうとう関羽がブチ切れます。
「しつこいな貴様っ!ウヒョ!は
書いてはいかんと言ったらいかんのだッ!
うがあああああああっ!!」
関羽は担いでいた青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を
目の前の蝋燭に振り下ろします。
蝋燭は燭台もろとも真っ二つに裂けました。
「よいか!もし、書いたら貴様もこのようになると心得よ!」
関羽はぶりぶり怒りながら、消えてきました。
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途方にくれる羅貫中だが、関羽の斬った蝋燭がヒントに
羅貫中は、途方にくれてしまいました。
折角のアイデアではありますが、たかだか一回分のネタの為に、
真っ二つにされてしまっては割にあいません。
さりとて、何のネタもなくては執筆も進まないのです。
羅貫中は、うんうん唸りながら、関羽が真っ二つに斬った蝋燭を見ていて、
そこで、ぱっ!と閃きます。
「そうだ!こうすれば見せ場も作れるじゃないか」
羅貫中は、さっそくサラサラと話の筋を書きなおしました。
“忠義の人関羽は、青龍偃月刀で、蝋燭を真っ二つに斬り裂いて、
一本を劉備の夫人達に、一本を自分が春秋を読むのに使った。
こうして、一切の間違いが起こる事は無かったのである。“
羅貫中は、関羽に斬られる事なく天寿を全うしましたとさ・・
三国志民話研究家、kawausoの独り言
三国志演義を執筆中の羅貫中に、本物の関羽が現れて、
話の筋に文句をつけるというパラドックスは、現代でも、
普通に使われる普遍性を持っています。
少しも色っぽい話がない関羽にエロ要素を入れようとする
羅貫中と、清純キャラを守りたいと必死の関羽の
掛けあいには楽屋オチ的な、三国志ファン受けしそうな
要素が溢れていますね。
※こちらは、三国志 中国伝説のなかの英傑という本を
参考にしています。
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