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【後出師の表】は味方の士気を下げるダメダメ偽造文書だ

この記事の所要時間: 551



出師の表と孔明

 

西暦228年11月、蜀の第二次北伐の直前に、(しょく)丞相(じょうしょう)諸葛亮(しょかつりょう)

皇帝・劉禅(りゅうぜん)に奉ったという上奏文「後出師の表(ごすいしのひょう)

諸葛亮の悲壮な覚悟が記された文章ですが、これは偽作ではないかという説があります。

確かにおかしいんですよ。

私が蜀軍の下っぱ将校だとしたら、総司令官が悲壮な覚悟を語るのなんか聞きたくないです。

 

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関連記事:諸葛亮の出師の表って、一体何が書いてあるの?

関連記事:黄皓(こうこう)は本当に悪い宦官だったの?実はあのキャラのモデルだった【HMR】

 

 

2つの出師の表-「前出師の表」と「後出師の表」

出師の表

 

出師の表と言えば、西暦227年に、第一次北伐を前にした諸葛亮が皇帝・劉禅に奉った

表文のことを指します。これは正史三国志の諸葛亮伝に載っています。

「後出師の表」と呼ばれているものは、冒頭に書きましたように西暦228年の第二次北伐前に

奉られたといわれる表文ですが、こちらは正史三国志には()っておらず、

諸葛亮伝の注釈に引かれている『漢晋春秋(かんしんしゅんじゅう)』に載っており、

『漢晋春秋』はこれを呉の張儼(ちょうげん)が書いた『黙記(もくき)』から引用しています。

この二つの表文を区別するために、

前者を「前出師の表」、後者を「後出師の表」と呼ぶことがあります。

 

 

「後出師の表」偽作説

 

「後出師の表」には昔から偽作(ぎさく)説があります。偽作が疑われる大きな理由は下記の2つです。

 

1.趙雲(ちょううん)が死んだことになっているが、趙雲の没年は西暦229年であり、

「後出師の表」が上奏されたという西暦228年にはまだ生きていたはずである。

 

2.「前出師の表」は正史三国志に収録されているのに、「後出師の表」は

注釈の中の呉の人が書いた本からの孫引きである。

偽作でないなら「前出師の表」と同様に正史に載っていなければおかしい。

正史三国志の著者の陳寿(ちんじゅ)は蜀の人なのに、呉の人でも知っている「後出師の表」を

収録しそびれるとは考えにくい。

「諸葛亮集」にも載っていないのに、呉の人の本にだけ載っているのは不自然である。

 

ちなみに、「後出師の表」の引用元である『黙記』の著者の張儼は諸葛亮のファンです。

 

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横道:張儼が諸葛亮を擁護した言葉

韓信

 

話はそれますが、張儼が諸葛亮のファンであった様子うかがえる記述が、

諸葛亮伝の最後のほうの注釈に載っています。

諸葛亮を批判するようなことを言った人に対して、張儼は諸葛亮を擁護(ようご)しています。

中心的な要素は下記の通り。

 

曹操(そうそう)劉備(りゅうび)存命のころより、両者の強さははるかにかけ離れていた。《中略》

劉玄徳(劉備)でさえ対抗しえたのに、諸葛孔明(諸葛亮)がどうして

軍を出して敵の滅亡を策してはいけないのか。《中略》

義心が主君に向って表現されている点となると、古えの管仲(かんちゅう)晏嬰(あんえい)といえども、

どうして彼以上でありえようか。

 

亮さんのやったことは間違いじゃない、亮さんの義心は管仲・晏嬰にまさるとも劣らない、

って言ってますね。ほんとにファンなんですね。

 

関係ないですが、張儼が劉備オヤビンの軍事的才能を諸葛亮より下に見ていることが

気になってしょうがないです。これには賛否両論あるのではないでしょうか。

あと、諸葛亮の義心を表現するためのひきあいに管仲と晏嬰を挙げていますが、

このお二人はそもそも義心を売りにするキャラじゃない冷徹な実務派政治家です。

彼らよりも義心で勝っているというのはべつに自慢にもならない気がするのですが……。

(諸葛亮をけなすわけではなくて、張儼のたとえの出し方がイマイチだなという感想)

 

内容的におかしい点(1) 「前出師の表」とテイストが違いすぎる

 

「後出師の表」は、内容的にも偽作っぽい気配があります。

まず、「前出師の表」とテイストが違いすぎます。

おんなじ人がおんなじようなシチュエーションで奉った上表文のはずなのですが。

 

「前出師の表」の内容はとても簡潔で、自分が先帝から高く買われていたことを

アピールしつつ、自分の留守中には自分の子分たちの言うことをしっかり聞いて

都を治めておくんだぞと皇帝に念押しをしておき、安心して前線に赴けるように

するための実用的な文章です。

諸葛亮孔明

 

一方、「後出師の表」は、なんだか物語っぽいです。

劉繇(りゅうよう)王朗(おうろう)夏侯淵(かこうえん)昌豨(しょうき)といった人名や、南陽、烏巣(うそう)潼関(どうかん)といった戦場名が出てきて、

三国志ファンが「ああ~、あの戦役、盛り上がったよね~!」と楽しくなっちゃうような

ドラマチックな作りになっています。全体的な雰囲気としては、弱小国の蜀を率いる

諸葛亮のご苦労がしのばれ、読む者がついホロリとしてしまうようになっています。

とても盛り上げじょうずで、「前出師の表」の実直な書きっぷりとは天と地ほどの違いが

あります。同じ人が書いたにしては、不自然です。

 

内容的におかしい点(2) リーダーの言うことじゃない

諸葛亮孔明

 

「後出師の表」の内容で決定的におかしいのは、文脈が悲観的すぎるということです。

本気で魏をつぶしに行こうとしてる人がこんなこと言うかしら、と首をひねってしまいます。

まず、最初のほうでこんなことを言っています。

 

(先帝は)臣の賊討伐の才が劣り、敵が強力であることをご存知でありました。

しかしながら、賊を伐たなければ、王業もまた滅びます。

ただじっとしたまま滅亡を待つのと賊を討伐するのと、どちらがすぐれた政策でしょうか。

 

成功を確信してないんですね。じっとしてたら滅んじゃうから、やぶれかぶれでもなんでも、

とにかくじたばたするしかないんだ、っていう発想です。

 

臣が漢中に行きましてから、わずか一年しかたっておりませんのに、趙雲陽羣(ようぐん)

馬玉(ばぎょく)閻芝(えんし)丁立(ていりつ)白寿(はくじゅ)劉郃(りゅうこう)鄧銅(とうどう)ら、さらに曲長や屯将ら七十人以上を失い、

先頭に立つべき突撃隊長もおりません。(そう)(そう)(雲南の蛮族)や青羌(せいきょう)散騎(さんき)・武騎

(騎兵隊の名)一千人以上、これらはみな数十年かかって糾合した四方の精兵であり、

一州の保有するものではありません。もしまた数年も経過すれば、三分の二を

失うことになるでしょう。

 

諸葛亮孔明

 

我が国は先細りだと言ってしまっています。

もっと未来に希望をつないでいただきたいです(将校を育てることは考ないんでしょうか)。

ここでこんなことを言ってしまって、一度の会戦で魏を席巻できればいいですが、

うまくいかずにずるずると二年、三年と経ってしまったら、

「後出師の表」で「我が国は先細り」という先入観を植え付けられた人々は

「最初の頃でさえ勝てなかったのにこんなに時間が経ってしまったらもうおしまいだー!」って

思ってしまいます。みんながそんな考えに沈んだ時点で本当におしまいになってしまいそうです。

 

「後出師の表」は、勝てるかどうか分からない戦いを強行することに反対する人たちを

論破するような論旨になっています。

そのために、「臣は無能であります。必ず勝利を得ることなどどうしてできましょうか」とか

「そもそもうまくいきにくいのが物事であります」などと言って、誰だって事の成否なんか

読めないけどそれでも何もせずにいるよりはできるだけのことをやるべきだ、と主張しています。

最後はこんな言葉でしめくくられています。

 

臣はつつしんで力を尽くし、死してのちやむ覚悟であります。

事の成功失敗、遅速については、臣の明らかに予見しえないものであります。

 

諸葛亮孔明

 

これは、大軍を率いるリーダーの言うことじゃないです。

将兵たちは、総司令官が成功を確信していない戦役に従事して命を落とすのかと

絶望するんじゃないでしょうか。

 

「後出師の表」では戦えない

三国志の兵士

 

蜀の下っぱ将校の立場にたって考えると、「後出師の表」には正直がっかりです。

我が国は弱い、って言うのはいいんです。

我が国は弱いから、みんなが全力でやってくれなきゃ勝てないぞ! って言ってもらいたいです。

我が国は弱いから、みんなが全力でやってくれても勝てるかどうか分からないぞ、なんて、

決して言ってはならないことです。

 

私が蜀の下っぱ将校だとしたら、表文の内容を耳にした瞬間に

「バッキャロー、ふざけんな!」って叫んで暴れて捕まって処刑されてしまいますね。

いや、そうやって暴れる自分の姿を妄想しながら羊みたいにおとなしく過ごして家に帰り、

家で酒飲んで一人でぶつくさ言って奥さんに煙たがられ、

悪酔いしながら奥さんにからみついて拒まれてもてあまして壁にパンチして穴を開け、

翌朝それをみつけた奥さんにさげすまれて自己嫌悪に陥りながらむしゃくしゃしながら

職場へ戻り、些細(ささい)なことで部下にネチネチ説教したりなぞして、

上司には見放され部下には嫌われ同僚も離れていきますかね。

こんなことでは戦えないですよ。

 

三国志ライター よかミカンの独り言

三国志ライターよかミカン

 

諸葛亮伝の注釈に引用されている『諸葛亮集』の「正議(せいぎ)」では、諸葛亮は『軍誡(ぐんかい)』にあるという

「一万人が死を覚悟すれば、天下に横行できる」という言葉を引用しながら、

弱小国でも勝てる! と強く訴えています。こちらが諸葛亮の本当の姿だと思います。

 

「後出師の表」は、内容的に絶対おかしいです。亮さんがあんなこと言うわけない。

あれは諸葛亮の北伐が成功しないという結末を知っている人の創作に違いないと、

私は断言いたします。

 

※後日「後出師の表」の真作説の記事も書きます。乞うご期待!

 

和訳引用元:ちくま学芸文庫『正史三国志5』井波律子訳 ( )の一部と《 》はよかミカン

 

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関連記事:【異聞】徐庶は劉備の人徳なんかどうでも良かった?

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三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。

個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。

三国志小説『ショッケンひにほゆ』
https://3594.fun 

【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】

好きな歴史人物:
王充(おうじゅう。後漢初期の思想家)
※ はじさんのサイト内検索で王充の記事が出てきます

何か一言:
三国志のお話の世界の広がりは無窮。
日々新しい三国志が生まれています。
ご一緒に三国志の新しい歴史を刻みましょう。

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