日本において、三国志は最も人気があるコンテンツと言っても過言ではありません。三国志に関する小説や漫画、ゲームは数え切れないほど出回っています。
そうした三国志を題材とした作品の中でも、異彩を放っているのが北方謙三先生の『三国志』シリーズです。今回は北方謙三先生の『三国志』シリーズ(以下、『北方三国志』とします。)の特徴とその魅力について紹介していきたいと思います。
北方謙三先生とは?
北方謙三先生は1947年に佐賀県で生まれ、中央大学在学中の1970年に『明るい街へ』が雑誌『新潮』に掲載され、文壇デビューを果たしました。
その後は単行本デビュー作の『弔鐘はるかなり』や『眠りなき夜』『さらば、荒野』『檻』といったハードボイルド作品を次々と世に送り出し、1980年代には日本を代表するハードボイルド作家の地位を確固たるものとしていました。
1989年には『武王の門』を発表して歴史小説にも進出し、1996年からは13巻にわたる『三国志』シリーズの刊行が始まりました。
以降は主に歴史小説を中心に著作活動を行っており、近年では『水滸伝』『楊令伝』『史記 武帝紀』といった中国史を題材とした作品を多く世に送り出しています。
また、北方謙三先生は『水滸伝』で司馬遼太郎賞を受賞したのをはじめ、数多くの文学賞を受賞しており、2000年からは直木賞の選考委員を務めています。このように、北方謙三先生は日本を代表する大衆小説・歴史小説家であると言えるでしょう。
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『北方三国志』の特徴とは?
『北方三国志』は正史に準拠したストーリー構成となっています。吉川英治先生の小説『三国志』やそれに基づいた横山光輝先生の漫画『三国志』に代表されるように、日本で読まれている三国志作品の多くは演義に基づいているので、こうした演義準拠の三国志作品を読んだ人は、ストーリーの違いに戸惑うこともあるかもしれません。
特に、演義は劉備を主人公とした物語である一方で、正史は統一王朝西晋の前身である魏を正統王朝と見なす傾向こそありますが、「主人公」と言える存在はありません。
『北方三国志』でも劉備や曹操をはじめとするお馴染みの英雄たちは登場しますが、作品中に明確な主人公は存在せず、劉備、関羽、張飛、諸葛亮、曹操、孫策、孫権、周瑜、呂布、袁紹、張衛、馬超といった様々な登場人物の一人称視点から物語が語られる群像劇となっています。
また、演義では登場人物が超人的な能力を発揮して一騎当千の活躍をすることがしばしばありますが、正史に準拠している『北方三国志』ではそのような超自然的な描写はほとんどありません。三国志の英傑たちもあくまで地に足のついた存在として、喜怒哀楽を伴った一人の人間として、登場人物の人間模様が重厚かつリアルに描かれています。
そして、『北方三国志』の最大の特徴はその戦闘描写ではないでしょうか。『北方三国志』には単騎で敵の軍勢を斬り倒していくような一騎当千の英雄は登場しません。『北方三国志』の英傑たちは一人の人間として、自らの命を懸けて馬上で得物を振るう存在なのです。
そこにはハードボイルド作家の北方謙三先生ならではのリアリティがあり、『北方三国志』を読めばあたかも自分が三国志の時代の戦場にタイムスリップしたかのような、感覚を味わうことができるでしょう。
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『北方三国志』の魅力とは?
『北方三国志』の魅力はなんといってもその人物描写でしょう。『北方三国志』の登場人物たちの、重厚でありながら細やかな感情表現は、ハードボイルドの名手である北方謙三先生でなければ描くことができなかったでしょう。
演義の持つ超自然的・伝奇的要素を排除した『北方三国志』だからこそ、登場人物の感情の動きやセリフがあたかもフィクションの枠を超えて、読者に訴えかけてくるようなリアリティを感じます。また、明確な主人公のいない群像劇である『北方三国志』では様々な人物が、物語の中でストーリーテラーとして重要な役割を果たしています。
特に、涼州軍の首領である馬超や五斗米道の教祖張魯の弟、張衛といった人物は演義では脇役にすぎません。しかし、『北方三国志』では彼らが物語の語り手として登場します。
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三国志ライター Alst49の独り言
このように、『北方三国志』は従来の作品では目立たなかった人物たちに光を当て、彼らの人物像を丁寧に描きあげているところが『北方三国志』の魅力でしょう。これまで述べたように、『北方三国志』は三国志を題材とした数多くの作品の中でも、特に異彩を放っていると言えるでしょう。
ですが、『北方三国志』は他の作品にはない魅力に溢れた名作です。みなさんも、日本を代表するハードボイルドの名手である北方謙三先生が紡ぎ出す『北方三国志』の世界に触れてみてはいかがでしょうか。
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