よく「未完の大器」や「大器晩成」といった言葉が用いられますが、「大器」とは何なのでしょうか?大器とは「人並みはずれた優れた才能や器量」、または「それを備えた人物」のことを指します。さて、三国志の登場人物では誰を思い出すでしょうか。
優れた才能といえば
人並みはずれた優れた才能の持ち主といえば、やはり曹操や諸葛孔明の名前が真っ先に登場するのではないでしょうか。将来を見据えた研ぎ澄まされた戦略、戦場での臨機応変な戦術。政治だけでなく、様々な分野の学問に精通し、応用できる知識の深さと視野の広さ。その優れた才能は多くの人を惹きつけたことでしょう。曹操も諸葛孔明もまぎれもなく天下を統べるだけの大器だといえるでしょう。
器の大きさといえば
それでは三国志演義の主役である劉備はどうでしょうか。三国志の大器といえば劉備という三国志ファンも多いはずです。なにせあの関羽と張飛が慕ったわけですから人間としての魅力にあふれた人物なのは間違いないはずです。
実際に三国志正史の著者である陳寿も「劉備は高祖の面影のある英雄の器であり、度量が広く、意思が強く、寛大だった。人物を見分け、士人を待遇した」と評価しています。まさに劉備こそ大器だといわんばかりです。
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劉備の度量の広さを物語るエピソード
もちろん三国志演義では劉備の大器ぶりを強烈にアピールしています。袁術を攻めた徐州の劉備でしたが、留守役の張飛が泥酔して失態を犯してしまいます。徐州を呂布に奪われるだけでなく、劉備の妻子も置き去りにして逃れてきたのです。それを知って関羽は怒り、張飛は自害しようとしますが、劉備は泣いて止めました。
「兄弟は手足の如く、妻子は衣服の如し。衣服は破れてもなおせるが、手足はそうはいかない。たとえ家族や領地を失っても兄弟を道半ばで死なせるわけにはいかない」
それを聞いて張飛も号泣します。こうして義兄弟の絆は強まりました。
「自分の家族よりも志を遂げるために家臣を優先する」これが理想のリーダーの器量というものなのでしょう。
長坂坡の戦いで劉禅を救出した趙雲に対しても同じようなことを伝えています。諸葛孔明に後を託して没する際も、劉禅に器量がなければ代わりに君主となるように遺言しました。そこまで「家臣を信じられる」「家臣を愛することができる」のが劉備の仁徳であり、大器の証ということでしょう。
同族から領地を奪った不義
しかしそんな劉備の大器を疑う説もあります。それが「劉備の益州征服」です。もともと益州の牧は、劉備と同じ皇帝の血を受け継ぐ劉璋でした。軍事行動を起こして劉備はその領地を奪ったわけですが、大義名分もなく同族の領地を侵略するのは不義です。
これについてはかなり長い間論争になっているようです。さらに諸葛孔明も絡んでいるだけに大きな問題とされています。三国志正史では平然と益州を征服する劉備ですが、三国志演義ではためらいを見せます。諸葛孔明も強制はしません。嫌がる劉備を決心させたのは、龐統と法正です。汚れ役を二人に押し付けることで、三国志演義では劉備の大器が守られるのです。
三国志ライターろひもと理穂の独り言
面白いのは、理想の仁義を象徴している一番手が劉備ではなく諸葛孔明とされている点です。そのため同族の領地侵略の不義は、諸葛孔明の進言ではなく、劉備の独断の可能性があると、南宋の朱子は述べています。三国志演義の価値観の土台は朱子学ですから、ここで劉備の人物像に矛盾と葛藤が生まれてきているのです。
理想を追求するあまりに脚色が多くなってしまう三国志演義ではありますが、「劉備は大器」で問題はないでしょう。そして「諸葛孔明はそれ以上に大器」ということになるのではないでしょうか。
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