泣いて斬ってる場合じゃない!全盛期の孔明ならやっていた筈の「正しい馬謖の使い方」

2022年4月8日


 

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泣いて馬謖を斬る諸葛亮

 

三国志(さんごくし)に由来する有名な故事、「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」。かの諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)が、自分が大切にしていた部下馬謖を、泣く泣く死刑に処したという出来事をもとにしています。

 

馬謖を斬り悲しむ孔明

 

「たとえ自分の目をかけた部下でも、失敗をした時は冷徹に処罰することで、組織に示しをつける」ことを、「泣いて馬謖を斬る、の故事に倣い云々」というようになったわけです。しかしいったい馬謖は、どれだけのことをしでかしたというのでしょうか?

 

そしてここで馬謖を斬ったことは、蜀の未来にとって、本当に妥当な判断だったのでしょうか?

もっとよい解決はなかったのでしょうか?

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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弁明の余地のない街亭の戦いの不始末!

馬謖

 

まず馬謖の責任の重さを整理してみましょう。問題となったのは、「街亭(がいてい)の戦い」という蜀の命運のかかった大一番。ここで馬謖は魏軍を相手に壊滅的な惨敗を喫し、それが全軍撤退という事態にまで波及します。諸葛亮渾身の国家的事業、「第一次北伐」自体が、この馬謖の敗戦を端緒に中断に追い込まれたほどの大打撃でした。

 

水路を断たれ残念がる馬謖

 

しかもそのときの馬謖の敗け方がよろしくない。馬謖は諸葛亮の命令に反した自己判断で、山の上に陣を敷き、まんまと補給路を断たれた上でボコボコにされたのです。

 

敵に囲まれる馬謖

 

上司の命令を無視して独断で作戦を変更。しかもそれが悪手、その惨敗が全軍崩壊の危機に波及。これはたしかに、弁明のきかない大失態です。「処刑によって責任を取らせる」という孔明の判断もやむなし、ともみえます。

 

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馬謖

 

 

 

全盛期の孔明ならこの災いも転じて「策」と化していた?

馬謖の失敗に嘆く孔明

 

しかし、どうでしょう?ここで諸葛亮が馬謖を処刑したことは、全盛期の孔明、つまり「赤壁(せきへき)の戦い」の頃の、天候すら動かすかつての鬼謀(きぼう)ぶりからすると、いささかフツーの組織人くさすぎませんでしょうか?

 

歳をとっても元気な孔明

 

さしもの諸葛亮も老いてきて、「示しをつけるためには馬謖を斬るしかない」と、組織論の教科書通りすぎる発想に、こり固まっていたのではないでしょうか?つまり、もし全盛期の孔明だったら、こんな部下の大失敗をも、むしろ転じてチャンスに変えてしまう、そんな「キレ」を見せてくれたのではないでしょうか?

 

孔明

 

そこで、こう考えてみましょう。もしこの時の孔明が、全盛期の頃、赤壁の頃の鬼謀あふれる若さのままであったとしたら、馬謖の始末はどうなっていたか?

 

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蜀のマイナー武将列伝

 

 

本当に処刑にするなんてもったいない!泣いて斬るフリをして他国に追いやる手が!

馬謖に地理を伝える諸葛亮孔明

 

この問題を整理すると、

・馬謖は大失敗をした

・その責任を取らせるには厳しい処置をしないといけない

という組織統制の視点が、まずあります。

 

馬謖に魏打倒を叩き込む諸葛亮孔明

 

しかしその一方で、孔明自身も惚れ込んでいたように、馬謖には戦略や政略の才能があったことも確かなのです。人材としては、ぜひもっと活躍させたかった筈。ただでさえ人材が枯渇し始めていた蜀の中で、丁寧に育ててきた馬謖を処刑だなんて、本当はもったいない!

 

この矛盾を、どうすればいいのか?

全盛期の孔明なら、ここで以下のような鬼謀を発動させたのではないでしょうか?

 

それは「泣いて馬謖を斬ることにする。けれど裏で手をまわし、わざと馬謖が逃げたことにする」という奇策です!まず、馬謖に責任を負わせて「処刑」を命じる。ここまでは同じです。これで組織の中に、「目をかけられている人材でも、大失敗をすれば処刑となるのだ」という示しがつきます。

 

重要なのはこのあとです。処刑前夜、孔明は馬謖のところを訪れて、「蜀の未来のために敢えて極悪人の汚名をきてくれないか」と頼み、わざと牢の戸を開けて逃がすのです。そして、魏に投降させるのです!

 

翌日、その報告をきいた孔明は、「馬謖のやつは、処刑が怖くてよりによって敵に寝返った!畜生にも劣る奴だった!」とわざとらしく怒る。馬謖は「責任を取らされて処刑されるところだったので、逃げてきました。今後は魏のために働き、私を斬ろうとした孔明のやつに一泡吹かせてやります!」と曹叡(そうえい)に話す。曹叡としては、諸葛亮の腹心中の腹心が寝返ってくれたことを受け、喜んで馬謖を帷幕(いばく)に迎えるでしょう。

 

これこそが思う壺、これは「埋伏(まいふく)の毒」の策なのです!実は、孔明と馬謖はしっかりと連絡をとっており、馬謖は寝返ったふりをしているだけ。そして魏の曹叡の下で、おおいに撹乱工作をする。

 

そんな大胆な不敵な鬼謀に、かつての孔明なら、つなげていたのではないでしょうか?

 

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北伐の真実に迫る

北伐

 

まとめ:このシナリオで見ものになるのは司馬懿VS馬謖!

曹操と曹丕

 

こんな策が簡単に通じるかとなると、たしかに、いささかギャンブルではあります。かつての曹操(そうそう)曹丕(そうひ)が相手なら、こんな手は通じなかったでしょう。しかし、このタイミングで馬謖が魏に寝返るならば、決定的に重要な利点があります。

 

司馬懿

 

曹一族と司馬懿(しばい)の間に不信感が高まり始めていた時期なのです。司馬懿自身にはこんな策は通じませんから、彼はすかさず、曹叡に「馬謖は孔明のスパイですぞ、まんまとだまされるとはナニゴトですか」厳しくと進言するでしょう。

 

ですがここで馬謖が、「司馬懿は陛下に対して何かハラがあるので、ああいうことを言うのです」とうまく曹叡に取り入れば?曹叡と司馬懿の間の仲を割き、司馬懿が先に軍隊を動かせなくなるように働けば?

 

何せ司馬懿が腹芸のおおい不穏な人物であることは真実。これは強烈に効くのではないでしょうか?馬謖の街亭での失敗を追及し、組織からは追放しつつ、それをスパイとして敵陣に送り込むことで、相手の陣営を混乱させ、特に相手のエース級司馬懿がうまく動けないようにしてしまう!

 

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曹真

 

 

三国志ライターYASHIROの独り言

三国志ライター YASHIRO

 

全盛期の孔明ならこれくらいの博打を打ってくれて、馬謖をみごとに使い、ライバル司馬懿をおおいに悩ませる奇策を発動したのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

 

そもそもこれをやったところで、馬謖は司馬懿をまんまと封じ込められるのか?

司馬懿VS馬謖の腹の探り合いというこの対決、ぜひ、見てみたかった気がします。

 

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YASHIRO

とにかく小説を読むのが好き。吉川英治の三国志と、司馬遼太郎の戦国・幕末明治ものと、シュテファン・ツヴァイクの作品を読み耽っているうちに、青春を終えておりました。史実とフィクションのバランスが取れた歴史小説が一番の好みです。 好きな歴史人物: タレーラン(ナポレオンの外務大臣) 何か一言: 中国史だけでなく、広く世界史一般が好きなので、大きな世界史の流れの中での三国時代の魅力をわかりやすく、伝えていきたいと思います

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