三国志演義・正史を問わず、三国志関連作品の主要登場人物にして、日本の三国志愛好家の間で絶大な人気を誇る武将、それが趙雲です。
今回の記事では、北方謙三先生の『三国志』(以下、「北方三国志」とします。)に登場する趙雲について解説していきたいと思います。
※ネタバレを含む内容です。
趙雲の登場と劉備との出会い
「北方三国志」において趙雲は、最序盤から最終盤まで登場する人物であり、劉備や曹操、諸葛亮などを超えて作中で最も多くの巻に登場する人物です。
この項ではまず、趙雲の作中で初めて登場する場面から話を進めていきたいと思います。趙雲が初めて登場するのは、冀州を巡って公孫瓚と袁紹が戦うシーンです。
反董卓連合の解散後、袁紹は自らの勢力を拡大するために冀州牧の韓馥から冀州を奪取し、これを良く思わない幽州の公孫瓚との間に争いが勃発したのです。
公孫瓚は果敢に袁紹に立ち向かいますが、猛将文醜の前に追いつめられ、絶体絶命に陥ります。そこに現れたのが趙雲でした。
趙雲は公孫瓚に助太刀し、獅子奮迅の活躍をみせて袁紹軍を食い止めます。そして、かつての学友だった公孫瓚の下に身を寄せていた劉備軍も参戦し、袁紹の大軍を撃退することに成功しました。
ここで、趙雲と劉備が初めて出会うことになります。幼いころから山中で修業を積んだ趙雲は公孫瓚に仕官しようとしていましたが、劉備を一目見て心酔し、劉備に仕官しようとします。
旗揚げ間もない時期の弱小勢力だった劉備は、武勇に長ける趙雲を配下に欲しいと思いますが、若い趙雲が人生経験を十分に積んでいないことを考え、「一年間各地を廻って群雄たちを見て回り、それでも仕官したければ仕官せよ」とあえて趙雲を突き放します。こうして、趙雲は一年間の旅に出ることとなり、しばらくの間、物語からは離れることになります。
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趙雲の復帰とその後
旅に出てから一年後、趙雲は劉備の下に戻ってきます。一年間、各地の群雄たちを見て回った趙雲が主として選んだのは、やはり劉備だったのです。
当時の劉備は各地を流浪する弱小勢力ではなく、一端の勢力を築いており、徐州を拠点に呂布や袁術と戦っていました。劉備軍の武力は趙雲の加入により強化され、趙雲は張飛と共に騎馬隊の指揮を任されることになります。
このように「北方三国志」では、趙雲の特徴として、騎馬隊の扱いに長けているところが強調されています。張飛と趙雲という二人の猛将が、劉備軍の騎馬隊を率い、劉備軍の攻撃の要となっていたのです。
これ以降も当然、趙雲は劉備の家臣として物語の中でしばしば登場しますが、残念ながら同じ劉備配下の関羽・張飛・諸葛亮・馬超などに押され、影は薄くなってしまいます。
これは、正史では関羽・張飛などと比べて趙雲に関する記述がかなり少なく、趙雲に関するエピソードの多くは演義や民間伝承によるものであることから、概ね正史に準拠した作品である「北方三国志」では、趙雲を主要な登場人物の位置に持ってくることが難しかったからではないか、と思われます。
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諸葛亮との友情と趙雲の最期
物語が終盤に入ると、劉備・曹操・関羽・張飛といった主人公級の登場人物たちが相次いで亡くなり、物語から退場していきます。そんな中でも生き残った趙雲は、諸葛亮と共に、「北方三国志」終盤の蜀における主要な登場人物の一人になります。
物語終盤において、趙雲は年老いながらも、魏延と共に諸葛亮率いる北伐軍の中心的武将として、劉備死後の蜀を諸葛亮と共に支えていく存在となります。
丞相として蜀を一手に支える諸葛亮にとって、趙雲は数少ない戦友であり、胸の内を語り合える仲間だったのです。特に、蜀の人々が諸葛亮を「丞相」と敬称で呼ぶ中、趙雲のみが「孔明」と字で呼ぶ仲として描かれているのが印象的です。
しかし、猛将趙雲もついには病に倒れ、最期の時を迎えます。諸葛亮や魏延、姜維といった蜀の諸将が悲しむ中、趙雲は「名もなき老兵が、ひとり死んで行く。」と言い残し、安らかに眠りにつきました。その様子は、まるで蜀という一つの王朝そのものの黄昏を予感させるものでした。
三国志ライター Alst49の独り言
いかがだったでしょうか。三国志作品の中でも、趙雲は特に人気がある武将なのですが、残念ながら「北方三国志」での趙雲は他の作品と比べて影が薄くなってしまっているところが否めない印象を受けます。
しかし、それでも物語の序盤から終盤まで戦い抜いた名将として、いぶし銀の活躍を見て取ることができます。特に、趙雲の最期のシーンは特に印象的で、序盤からずっと登場し続けてきた趙雲の死は「北方三国志」という物語の終わりを暗示する場面で、とても味わい深いものとなっています。
趙雲のファンという読者にとっては少々物足りないかもしれませんが、影が薄くとも物語全体を見渡せば、趙雲という人物は「北方三国志」になくてはならない人物と言えるのではないでしょうか。
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