「ああ、惜しいことをした」
夜中のあなたの部屋で、ふとそんな不気味な声が響いてくる。
なんだと思って布団から半身を起こすと、そこに立って嘆いているのは、なんと三国志の群雄の一人、袁紹の亡霊!
・・・と仮定してみましょう。
何が惜しかったのか?
そう、あなたが聞いてみたとします。
袁紹の亡霊はそれに応えて曰く、「いや、わしが曹操に負けた理由を二千年ほど考え続けてきたのだが、どう考えても、曹操よりもわしの方が家柄は上。政治家としての実績も上だ。
そんなわしが曹操に敗れた理由は、都から献帝が脱出した際のことだ。曹操が帝を保護して担ぎ上げたが、わしはそれに出遅れてしまった。わしと曹操との違いは、これだけのように思うのだ」
いろいろ言いたいこともある気持ちを抑えてあなたが辛抱強く話を聞いていると、袁紹の亡霊はさらにこんなことを語り始めました。
「ところが、実はあの時、都を脱出した帝は、曹操のところではなく、わしのところに逃げ込んでくるというハナシもあったのだ。あれを受け入れておけば、わしが曹操などに負けるはずはなかったのだ。いやはや、ああ、惜しいことをした」
その袁紹の亡霊の嘆き、あなたはどう受け止めるでしょうか?
この記事の目次
実際に献帝の逃げ先候補のひとつは袁紹のところだった!?
その前に、事実関係を確認しておきましょう。董卓の死後、李傕と郭汜
というどうしようもない連中に囲われていた状況から、側近を連れた献帝がなんとか脱出したということは事実。
それを曹操が軍を出して迎え、保護したことも事実。その後の曹操が何かと「献帝を保護している」という事実を掲げて、さんざん帝の権威を利用して成功したことも事実です。そしてもうひとつ、献帝が都から脱出したときに、保護者の候補として袁紹の名前が最初は上がっていたことも事実のようなのです!
これだけ見れば、袁紹の亡霊が「ああ、惜しいことをした」とボヤくのも説得力があるように見えるかもしれません。
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どうして袁紹は献帝を迎え入れるチャンスを逃したの?
ただし注意しなければならないことがあります。この献帝からの「保護」の申し入れを断ったのは、他でもない、袁紹自身なのです。どうしてこんなチャンスをみすみす逃したのか?
諸説ありますが、部下に「献帝を迎え入れてしまうと、袁紹様の権威が下がってしまい、何かと不自由になるから」と進言されたことが理由の一つと言われています。
後に曹操にさんざん利用されて捨てられることになる献帝に、既にそんな強力な権力は残っていなかったはずなのですが、それを指して「あの人がわしのところに来るといろいろ言うことをきかなくちゃいけなくなるから困るな」と警戒するとは、なんという肝の小さいこと!?
などと、目の前にいる袁紹の亡霊に露骨に言うわけにもいかないので、もう少し袁紹の言い分を聞いてみましょう。
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もともと人間関係として献帝と袁紹の仲は微妙だった?
「いや、実はあのとき、わしは献帝を掲げるわけにもいかなかったのだ」袁紹の亡霊はそう言うかもしれません。確かに、董卓が乗り込んでくる前の洛陽での権力闘争において、実は袁紹は献帝の兄である少帝を支援していた派閥の重鎮なのです。
過去の経緯から、どうにも献帝といまさら「組む」というのは気が引けた、ということかもしれません。ともあれ、過去の経緯を差し引いても、どう見ても「袁紹がエイヤと決断していれば決まったハナシ」には見えてしまいます。やはり袁紹が優柔不断なうちに曹操に先を越された、というのが実情に近いような。
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まとめ:これを言ってはおしまいながら「献帝さえいれば曹操に勝てた」のか?
しかし、それよりも何よりも、袁紹の亡霊を前にしたあなたは、ここでどうしても言いたいことが出てくるのではないでしょうか?
「たとえ献帝を保護していたところで、あなた、それだけで曹操に勝てたのでしょうか?」と。
というのも、時の後漢朝廷の権威を借りるというなら、袁紹の親戚の袁術もさんざんやっていたことだからです。袁術の場合は玉璽を手に入れて調子に乗り、皇帝を僭称しただけで他に特に何もせず、割拠した英雄たちの格好のエジキとなって、ボコボコにされて滅亡しました。袁紹が献帝を奉じたところで、その献帝をまさに奪いたいと、曹操にゴリゴリに攻められ、結局は袁家は滅ぶ運命だったようにも見えます。
つまりヒトコトにまとめると、「時の帝を掲げたところで、あなたの親戚の袁術の末路と同じようなことになるのでは?」とツッコミたくて仕方なくなるはず。
三国志ライターYASHIROの独り言
さて、それを、プライドの高そうな袁紹の亡霊にズバリ、ツッコミを入れてみますか?
それとも適当に話を合わせ慰めて、さっさとどこかに消えてもらいますか?
どちらを選ぶかは、あなた次第!
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