いつの時代も父親が偉大であればあるほど二世は辛いものです。特に父親が神様として祀られようものなら、その息子は否応なしに注目を浴びてしまうでしょう。
三国志において、そんな特殊な条件に当てはまる人物が関平です。関平は謎が多い人物で、正史を見ても関羽とともに孫権に斬られたことしか記載がありません。
三国志演義ではそれなりに見せ場がありますし、最後に関羽とともに殺されるシーンにもドラマ性があります。こうした史実にない事柄を演義で脚色するというケースは、決して珍しいものではありません。
ただ、関平の場合はほぼ全ての脚色が神格化された関羽の評価や印象を向上させるために存在しています。そこで今回は関平が死後にどんな脚色をされ、関羽のイメージアップに貢献しているか見ていきたいと思います。
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三国志演義の養子設定
正史と演義の最大の違いと言ってもいいのが実子か養子かという問題です。正史には「斬羽及子平于臨沮」とあり、「関羽の子」という表現がされています。養子とは書かれていないので、恐らく実子で間違いないでしょう。
しかし、演義では関定という人物の息子として登場し、劉備の取りなしもあって子供がいなかった関羽が関平を養子にもらっています。
このエピソードは関定という謎の一般人が、息子を預けたいと思うほど民衆から慕われていることを案に示していますし、兄の劉備が劉封を養子にもらうことに寄せた話でもあります。関羽にとってはややプラスですが、実子から養子にされた関平にとってはマイナスの話です。
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養子設定は岳飛のせい?
なぜ関平が演義で養子になったのかについては、明確な理由は分かっていません。単純に劉備と劉封の関係に合わせただけとも言えます。
ただ、筆者としては関羽が南宋の名将である岳飛と同一視され、一時は岳飛が関羽の生まれ変わりと言われれていたことから、岳飛との関連付けのための設定ではないかと考えています。
岳飛は宰相だった秦檜に疎まれたために親子揃って反逆罪で処刑されましたが、関羽と岳飛は味方に裏切られたこと、親子揃って殺されたことなど類似する点が比較的多いです。
それに加えて、岳飛とともに殺された息子の岳雲は養子であったという説があります。つまり、関羽と岳飛がより類似するように、三国志演義では関平も養子にしたということです。
もしこれが事実であるとするなら、関羽と岳飛を同一視する信仰のために、出自を変えられてしまったことになります。
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忠義、親孝行キャラ
事実を淡々と連ねている史書からは、その人物の人柄などについてはあまり触れられていません。なので、演義では多くの人物が人格を脚色されていると言えますが、関平の性格については関羽に都合のいいものと言えるのではないでしょうか。
例えば、樊城の戦いにおいて関羽が毒矢で負傷した際に、関平はすぐさま関羽のもとに駆け寄り、血路を開いて脱出をしました。このことから、関平は親孝行な人物というイメージがあります。
また、死ぬまで関羽と一緒に戦い続けたことから親子ともに忠義報国の士と言われ、関平は死後に架空の人物である周倉とともに関帝廟で祀られるようになりました。これに関しては関平にとっても究極の棚ぼたと言えるかもしれません。ただ、それでも最終的に得をしているのは、子や部下などに慕われていたアピールがされている関羽でしょう。
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京劇では関羽に殺されかける
元代に作られた雑劇の中には怒った関羽が関平を殺そうとするストーリーもあります。その話は、王鵬という人物が関平の乗る馬に跳ねられて死んでしまい、祖母が訴えを起こすところから始まります。
それを聞いて怒った関羽は関平を殺そうとしますが、関興が登場し「罪はこの弟が引き受けますので、兄をお許しください」と訴えました。関羽はこれを認め、関平を釈放すると関興を処刑しようとします。
これを聞いた張苞は王鵬の祖母を刑場まで連れて行き、祖母が直々に「そこまでしていただかなくても大丈夫です。関興様を許してあげてください」と訴えました。
関羽は頑なに許そうとはしませんでしたが、ちょうど曹操軍が攻めてきたという報せが入ります。そこで、祖母は「関興様を戦場へ行かせ、その功績で罪を許してあげてください」と訴えると関羽も了承し、最終的に関興は助かりました。
そして、家族を失った王鵬の祖母は関羽が養うこととなったという話です。
泣いて馬謖を斬るの故事のように関羽の清廉潔白さ、関興の兄弟愛が垣間見れるエピソードですが、関平はただただ人を殺して罪を免れただけで、どちらかと言えば損な役回りとなっています。
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三国志ライターTKのひとりごと
趙雲のように正史では記載が少ないのに、演義で活躍しているキャラは少なくありません。ただ、関平の場合は関羽に付随した話が多く、関羽を引き立てるエピソードが多い印象でした。
これは二次創作系の話でも同様で、もっと関羽とは関わりのない所で活躍する話があっても面白いのかなと個人的には思っています。
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