黄忠(こうちゅう)は、敵将夏候淵(かこうえん)を討った勢いを駆って、
そのまま漢中の郡都である南鄭(なんてい)を占領してしまいます。
曹操(そうそう)は、激怒し20万の大軍を率いて、険しい山地を超えて、
三度目の漢中へと陣を進めていきました。
前回記事:104話:黄忠vs夏侯淵|定軍山の戦い
この記事の目次
曹操軍が疲れていた、その理由とは?
しかし、平地とはわけが違う山地の進軍、曹操軍は戦争の前の段階で
疲れ果ててしまいます。
そうでなくても、ここ数年、合肥(がっぴ)攻防戦や漢中攻略で
戦争続き、曹操軍には、明らかに嫌戦気分が蔓延していました。
それでも何とか、曹操軍は斜谷道から漢中に入り陽平関に陣を敷きます。
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劉備軍はベストメンバーが揃っていたが無理をせず持久戦
劉備軍は、既に曹操に備えて完全な防備を備えていて、
張飛(ちょうひ)、馬超(ばちょう)、法正(ほうせい)に孔明(こうめい)と
錚々たる人員が揃っていましたが、劉備(りゅうび)は、ここで
一切無理をせず持久戦を選びました。
劉備:「大丈夫じゃ、何か今回はワシ、曹操に負ける気がせんのよ♪」
劉備は嬉々として、城壁によじのぼると、体を動かしたり
曹操軍を眺めたりして余裕のりゅうちゃんです。
曹操軍は、劉備が予想した通りに士気が低く、おまけに、
兵糧を運ぶ事に苦労したので常に食糧不足に悩まされていました。
こんな事なら20万の大軍を持ってこなければ良かったのですが、
いまさら、そんな事を言っても始まりません。
曹操は劉備を挑発するが...
曹操は、何度も劉備を挑発しますが、本拠地を得て、余裕綽々の
劉備は、城壁の上で小躍りしながら、まるで応じないままでした。
憎たらしい劉備を眺めながら、曹操は日々の食糧の調達に追われる事になります。
魏軍の士気が落ち始め孔明がある提案を出す
こうして、魏軍の士気はみるみる落ちていきました。
そして戦闘が始まって、半年も経った頃、孔明は、魏軍の食糧倉庫を
焼き払う計略を提案します。
ここで、食糧倉庫を焼かれれば、魏軍は飢餓に陥り、戦争は
蜀軍の大勝利に終わるからです。
これに応じたのは、黄忠と趙雲でした、二人は互いに先陣を譲らないので
くじ引きになり、引き当てたのは黄忠でした。
趙雲は無念でしたが、黄忠がしくじった時に、
そのリカバリに入るという役割を与えられました。
黄忠:「わしゃ、失敗など考えた事は無い、しくじったら、死ぬ時ぞ
そう思って、今まで生きてきたわい」
たった500の手勢で食糧庫に斬り込む黄忠を趙雲は心配しますが、
黄忠は、こう言い返して、夜陰に乗じて城を出ます。
黄忠、御年七十過ぎの心意気!カッコイイじゃありませんか。
黄忠は500騎を率いて魏の食糧庫を襲う
黄忠の手勢500騎は、首尾よく北山の麓に山と積まれた食糧庫に、
到着しました、長い膠着で警戒が弱っていたのか守備兵は、殆どいません。
黄忠:「よし、景気良く焼き払ってやれい!!!」
守備兵を蹴散らした黄忠は、配下に命令して食糧に火をつけます。
しかし、その黒煙は魏軍を呼び寄せるには充分でした。
異変に気がついた魏軍の徐晃(じょこう)は現場に急行し黄忠を発見します。
徐晃:「おのれ、黄忠!夏候淵殿の仇! 逃がしはせぬ!」
徐晃は、黄忠に追いすがりますが、ここは漢中、周辺は岩山で曲がりくねり、
中々、黄忠に追いつけません。
その頃、趙雲は、麓から煙が上がっているのを確認して黄忠が首尾よく、
作戦を成功させたのを知りますが、そのまま約束の刻限になっても、
黄忠の部隊が帰還して来ません。
趙雲は黄忠を心配し捜索
趙雲:「もしや、老将軍、敵兵に討たれたのか、、、
なんという事だ、こんな事なら無理にでも私が出れば良かった」
そう思うと、出陣前の黄忠の言葉が尚更引っ掛かります。
趙雲は、いてもたってもいられず、手勢千騎を率いて、周辺を捜索し始めます。
その時、運悪く、趙雲の騎兵千騎は、黄忠を追いまわしていた
徐晃の大軍勢と遭遇してしまいます。
徐晃:「趙雲、こんな所で会おうとは、手柄首が、もう一つ増えそうだ」
趙雲:「徐晃、、貴様が老将軍を討ったのか、、許せん!!」
趙雲vs徐晃
趙雲は、馬に鞭を入れて徐晃に突進しました、その貫通力は非常なもので
魏の大軍は、紙のように突破されていきます。
徐晃:「くっ!小癪なあっ!!!」
徐晃は、兵を立てなおして、再び趙雲に追いすがります。
すると趙雲は、一気に軍を引き返し、砦に向かって逃げ戻ります。
徐晃:「口ほどにもない、追えっ!趙雲を殺せっ!!」
大軍を擁する徐晃は、逃げる趙雲を追いかけます。
ところが、趙雲の砦に辿りついた徐晃は、異様な光景を目にします。
砦は城門が開かれ、人っ子一人いないのです、、
徐晃:「馬鹿な、、確かに今、趙雲はここに入ったハズ、、
いや、しかし、これは孔明の策かも知れぬ、、
迂闊に突入しては、まずい」
徐晃は、進むのを躊躇して、全軍に退却を命令します。
その時でした、、、、
ジャーン!ジャーン!ジャーン!!
退却を開始した魏軍の背後に伏兵が現れ、銅鑼を鳴らし矢を射かけてきたのです。
驚いた徐晃が、前に進むと、砦の門は閉まり、城壁からも矢が飛んできます。
徐晃:「おのれ、、趙雲に謀られた!!」
徐晃は、何とか軍を立てなおそうとしますが、伏兵に前後を挟まれた魏兵は
何が起きたか分からず混乱して同士討ちを始めます。
その混乱に乗じて、趙雲の兵も飛び出し、魏兵を滅茶苦茶に斬り殺します。
徐晃:「退けィ!退却、退却―っ!!!」
徐晃は、味方を斬り捨てながら、僅かな手勢を率いて脱出します。
たった、千騎の趙雲の軍勢が、1万の徐晃の軍勢を撃破したのです。
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黄忠は蜀軍に自力で戻ってきていたが....
その頃、敵の戦死者数を確認していた趙雲の元に、黄忠が、
僅かな手勢を率いて戻ってきました。
趙雲:「老将軍、生きておられたのですか!」
黄忠:「今度ばかりは駄目かと思うたが、、まだ生きておるわ」
黄忠は疲労の濃い表情で笑いましたが、これといった傷はありません。
恐るべき老人パワーに趙雲は安堵しました。
趙雲が魏軍に与えた損害
戦勝の報告を受けた劉備は、急いで趙雲の陣地にやってきて、
そのおびただしい魏兵の戦死者を見て驚きました。
劉備:「たった、千騎で曹操の大軍を破るとは、趙雲は全身が肝じゃのう!」
劉備は、驚嘆して趙雲の勇気を称えました。
一方の魏軍は、食糧倉庫を焼かれた事で、さらに食糧調達が苦しくなります。
曹操は馬超と魏延にフルボッコ
それでも、曹操は、それから二カ月頑張り続け、窮地を打開しようとして
劉備と決戦に挑みますが、混戦の中で馬超に蹴散らされ、
さらに魏延の放った矢が、曹操の前歯に命中して歯が欠けるという
九死に一生の体験をします。
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曹操、鶏肋(けいろく)と呟く
曹操は、陣地に戻ると、悩みに悩んだ末に、「鶏肋(けいろく)、鶏肋」と呟きます。
鶏肋とは、鶏のガラであり、スープのダシとして捨てるには惜しい食材、
しかし、肉がついているわけでもないので強いてまで必要ではない、、
曹操は漢中を鶏肋と例えて、自軍に犠牲を強いてまで奪う必要が無い土地
そう考えて、撤退する事を決意したのです。
劉備は曹操に圧勝
足掛け3年に及んだ、漢中争奪戦は、こうして劉備の圧勝で幕を下ろします。
劉備は、曹操が魏王を称したのに対抗して、漢中王を称して即位します。
これまで、逆立ちしても曹操に勝てなかった劉備は、こうして、
自力で曹操を追い払い、漢中王の地位に就いたのです。
辛い事ばかりの連続だった劉備の人生の絶頂期がここでした。
ですが、劉備の輝かしい時は、長くは続きませんでした。
この後、劉備は体を引き裂かれるような悲しい知らせを受けるのです。
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