韓信(かんしん)は、若い頃、貧しく、また自分でお金を稼ぐ力もありませんでした。
いつも、人の世話になっては、ぶらぶら遊び歩く韓信を馬鹿にする人はいても
友達だと思う人は少なかったのです。
しかし、鐘離昧(しょうりばつ)だけは、韓信の野心と優れた将軍としての才能を
評価していました。
ところが、二人の友情は、残念な結末を迎える事になります。
この記事の目次
若い頃の韓信を知る鐘離昧
鐘離昧は、会稽郡(かいけいぐん)、山陰(さんいん)県の人であるようです。
若い頃から、武勇の誉れ高い人で、いわゆる出来る人でした。
韓信も会稽郡からは遠くない淮陰県の出身で、鐘離昧は、
若き、ニート同然の頃の韓信をよく知っていました。
周囲の人々は、韓信をロクデナシの臆病者と馬鹿にしていましたが、
鐘離昧は、韓信の底知れない才能を見抜いていたので、
嫌な顔もせず、韓信と友達として付き合っていました。
鐘離昧と韓信は反秦連合軍に加わるが・・
二人が成人した頃、始皇帝が死去し、翌年の紀元前209年には、
陳勝(ちんしょう)と呉広(ごこう)が、100万の流民を率いて反乱を起します。
その頃、会稽で挙兵したのが、項梁(こうりょう)と項羽(こうう)でした。
場所が近い事もあり、鐘離昧と韓信は、共に項梁の軍勢に身を投じます。
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項羽の覚え目出度い鐘離昧、無視される韓信
項梁の軍に入った鐘離昧は、項羽に気に入られてメキメキと出世します。
項羽には、范増(はんぞう)、周殷(しゅういん)、竜且(りゅうしょ)という
信頼の厚い重臣がいましたが、鐘離昧も、この中に入っていたそうです。
ところが、同じ頃に入った韓信は、項羽に評価されず、いつまでも
郎中(ろうちゅう)という、ボディーガードの地位のままでした。
将軍として、一軍を指揮したい韓信は、それが不満で何度も、
項羽に献策しますが、ことごとく項羽に無視されました。
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見かねた鐘離昧も項羽に韓信を推挙
対照的に重臣の地位にあった鐘離昧は、何度も項羽に、
鐘離昧「韓信はミラクルな男です、是非将軍の地位に就けて下さい」
と推挙を繰り返します。
しかし、項羽は、鼻で笑って、本気にしませんでした。
項羽「友達を思う、そなたの心は麗しい、、
しかし、誤解しないでくれ、余は韓信を知らず使わないのではない。
聞いた話では、韓信は昔、生命惜しさにゴロツキの股の下をくぐったそうではないか?
何と意気地の無い事か、、そのような男に一軍を任せる事は出来ぬ」
鐘離昧は、それには理由がある事を説明しますが、無駄でした。
韓信、項羽の下を飛び出し、劉邦に仕える
幾ら献策しても、項羽に使われない事を知った韓信は、
鐘離昧に別れを告げ劉邦(りゅうほう)の陣営に入っていきます。
やがて、項羽は秦を滅ぼして、西楚の覇王を名乗りますが、
劉邦はその功績を危険視されて、秦嶺山脈の向こうの
巴蜀(はしょく)の地へ左遷されます。
ここで、韓信は、劉邦の重臣、䔥何(しょうか)の必死の説得もあり、
ついに大将軍の地位に就きます。
やがて、劉邦は、項羽が主君である楚の懐王(かいおう)を
弑逆(しいぎゃく:家臣が主君を殺す事)した事を理由に、
反項羽の旗を挙げて、巴蜀を脱出するのです。
皮肉にも、韓信と鐘離昧は、ライバルの重臣同士になってしまいます。
鐘離昧、項羽の懐刀として劉邦を苦しめる
鐘離昧は、項羽の懐刀として、漢を興した劉邦を度々苦戦させました。
その為に、劉邦は鐘離昧を激しく憎み、かつ恐れるようになります。
陳平(ちんぺい)の離間計が炸裂、鐘離昧、項羽の下を飛び出す
陳平「腕力馬鹿の項羽がこれだけ強いのは、
配下に強い武将を従えているからで御座います。
范増、竜且、季布(きふ)、鐘離昧、周殷、この連中に計略を仕掛けて、
項羽の下から引き離せば、一人になった項羽は恐れるに足りません」
天性の性格の悪さでは、奇計では、誰も敵わない陳平は、
大金を撒いて、これらの有能な武将を項羽から引き離す事に成功します。
これにより鐘離昧も項羽に疑われるようになり、それに苦痛を感じた
鐘離昧は、最後の垓下の戦いで、項羽と運命を共にせず、
一般の兵卒に紛れて、城を脱出しました。
鐘離昧、親友の韓信を頼り楚に逃れる
劉邦は天下を取り、漢の高祖になります。
しかし、劉邦は鐘離昧を許そうとはしませんでした。
劉邦「鐘離昧は、ワシに煮え湯を飲ませず続けた、、
他の人間ならまだしも、鐘離昧だけは、絶対に許さぬ、
捕えて殺してやる」
もはや、天下に鐘離昧の居る場所は、どこにもありません。
思い余った鐘離昧は親友である韓信を頼ります。
流石に韓信が貧しい時代から彼を評価し、項羽にまで売り込んだ
鐘離昧の窮地を韓信は見捨てる事も出来ず、楚に匿いました。
当時の楚は治外法権・・
当時の韓信は、楚王として、かつての楚の領地を丸々保有していました。
その領地を与えたのは劉邦であり、それは、項羽を討つのに韓信の力が
どうしても必要だったからです。
しかし、独立した王国である楚に鐘離昧が逃げこんでも漢の兵士は、
勝手に入る事も出来ません、治外法権(ちがいほうけん)があるからです。
劉邦は、韓信に鐘離昧を引き渡せと迫りますが、
韓信は、なんやかやと理由をつけ、渡そうとはしませんでした。
劉邦、韓信を討とうと兵力を集める
そんな時に、韓信が謀反を企んでいると讒言する人間がいました。
それを信じた劉邦は兵を集めようとしますが、韓信に気づかれてはまずいです。
そこで、陳平に相談すると、
「狩りをする為に兵を集めるとして、陳に諸侯を集めて韓信を討つといいでしょう」
とアドバイスしたので、狩りをするフリをして陳(ちん)に兵を集めます。
油断していた韓信は気がつくと、劉邦が大軍を集めているので驚きました。
ある人が、鐘離昧を差し出せば、韓信は許されると助言
韓信は、謀反など考えていないので、劉邦に面会して誤解を解こうとします。
しかし、自分が行けば、問答無用で逮捕されるのでは・・と恐れました。
そこに、ある人がやってきて韓信に言いました。
「陛下は、あなたではなく、鐘離昧を嫌っておいでなのです。
あなたが、鐘離昧の首を斬り、陛下に差しだせば、罪に問われる事はありません」
韓信は、そう言えばそうだと考え直し、鐘離昧に
自分の為に死んでくれと説得を始めます。
鐘離昧は、韓信を激しく罵る
韓信から、そのように言われた鐘離昧は激しく怒りました。
鐘離昧「君は、一度私を匿っておいて、自分の身が危うくなると、
今度は手の平を返し、劉邦に売ろうというのか?
何という見下げ果てた男だ、中途半端になる位なら、
最初から私を匿わなければ良かったのだ!!」
韓信「すまぬ、、君の言う通りだ、、だが俺には家族も家臣もいる。
今、戦になり全てを失うわけにはいかない・・
本当は俺だって、親友を売るのは辛いのだ分かってくれ!」
鐘離昧「いや、君は何も分かっていない!
劉邦は、私と君が手を組んで自分に背くのを恐れているのだ。
私が死んだら、劉邦は邪魔者が消えたと喜び、
ますます、君を追い詰めるだろう・・
そして、君は最後には私と同じ運命になる、覚えておくがいい」
鐘離昧は、そう言うと、自分の首を短剣で突いて自殺しました。
鐘離昧の首を劉邦に差しだした韓信は逮捕され王の位を追われる・・
韓信は、鐘離昧の首を持って、劉邦に謝罪します。
しかし、劉邦は、韓信の罪を不問にはせず、楚王の位を取り上げ、
淮陰侯(わいいんこう)に格下げしてしまいました。
淮陰侯は、故郷、淮陰県一つを領有するだけの侯です。
楚の六十余城を支配していた昔とは、較べものになりません。
かつては、配下だった将軍達と同列に並べられ、韓信は屈辱に塗れます。
韓信は、劉邦により淮陰侯に落された事を恨み、陳豨(ちんき)の反乱に
呼応して、謀反を起そうとしますが、その情報は漏れます。
そして、䔥何に呼び出されて、のこのこ長安に向かった所を逮捕、
最後には、呂后(りょこう)によって処刑されました。
鐘離昧の予言通り、韓信は鐘離昧と同じ運命を辿ったのです。
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楚漢戦争ライターkawausoの独り言
韓信は、処刑される直前に、
狡兎(こうと)死して良狗(りょうく)煮らるると呟きます。
意味は、ずるがしこい兎が死んだので、それまで兎狩りに重宝していた
犬が不用になり煮て食べられたという事です。
まさに韓信は、項羽という兎を狩る為に大事にされたのであり、
それが死んだ今、自分は無用の長物だと悟ったのです。
恐らく韓信は、この時に鐘離昧の言葉を理解したでしょう。
䔥何や張良(ちょうりょう)のように卑屈な程に
慎重に劉邦に媚びる事が出来ない、韓信や鐘離昧は、
結局は、乱世が続くか劉邦を倒す以外に生き残る道は無かったのです。
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