この記事では、北方謙三先生の「三国志」(以下、「北方三国志」とします)の主要登場人物について簡単にご紹介します。「北方三国志」を読んだことのない方でも、この記事を読めば「北方三国志」の描き出す独特の人物像に触れることができるでしょう。
この記事を読んで、「北方三国志」に興味を持ったという方は、ぜひ「北方三国志」を手に取り、北方謙三先生の紡ぎ出す「三国志」の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
蜀漢
幽州涿郡の出身。義弟の関羽・張飛とともに漢王朝の復興を目指して立ち上がる。腐敗し、衰退しきった漢王朝を再建することこそが万民の安寧に繋がるという信念を持つ。
信義や誇りを何より重んじる人格者としての評判が高いが、武の才能にも長け、時には軍を率いて自ら戦場に立って戦う。義弟の張飛からは「大兄貴」と呼ばれている。
関羽
劉備の義弟。武力に優れた豪傑だが、性格は冷静沈着であり、劉備と同様に信義を重んじる誇り高い武将。しばしば激情に駆られる劉備や張飛を抑える役割を果たすこともある。張飛からは「小兄貴」と呼ばれている。
張飛
劉備・関羽の義弟。一般的には暴れん坊のイメージだが、「北方三国志」の張飛は腕っ節の強さと優しさを兼ね備えた武将であり、義兄の劉備の人徳を引き立たせるために、しばしば乱暴な行いを見せることもある。騎馬隊を指揮しており、劉備軍の武の象徴ともいえる存在。
荊州出身の軍師。田舎暮らしに不満を抱き、自らの才能を天下に示したいという野望を抱く。漢王朝の復興という自らの信念を貫き、圧倒的な勢力を誇る曹操に立ち向かおうとする劉備の志に感銘を抱き、劉備の家臣となる。劉備の死後も蜀に仕え、最期まで蜀を盛り立てた。
冀州常山郡出身の豪傑。劉備の徳と志にひかれ、家臣となろうとするが、まだ若く世間を知らないことから劉備に拒まれる。その後は劉備の教えに従い、諸国放浪の旅に出る。劉備が荊州の劉表に身を寄せた際に、劉備のもとを訪れて正式に家臣となる。仕官後は関羽・張飛とならぶ猛将として主に武の面で劉備を支える。
董香
「北方三国志」オリジナルキャラクター。劉表の家臣であった董陵の娘で、劉備が劉表の下に身を寄せていた時に、張飛が董陵から馬を借りたことを機に張飛にひかれ、張飛と結婚する。男勝りの人物で、女性でありながら戦場では馬に乗り、剣を振るって戦う。
王安
「北方三国志」オリジナルキャラクター。徐州出身の少年で、張飛に拾われて従者となる。長坂の戦いでは張飛と共に、劉備の妻子を守るために曹操軍と戦い、戦死する。
応累
「北方三国志」オリジナルキャラクター。劉備の志に共感し、スパイとして劉備に仕える。主に劉備軍の情報収集を担当する。なお、本作では蜀・魏・呉のそれぞれに情報収集を行うスパイ組織が仕えている。
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魏
曹操
智勇に優れた英傑であり、腐敗した漢王朝に代わって自らの覇道を打ち立てることを目指す。天下獲りの野望を達成するべく、才能ある者を登用し、大勢力を築き上げる。しかし、宦官の家系であることへのコンプレックスを持っており、心の内では、漢王朝復興という純粋無垢な夢を追いかける劉備への羨望を感じるなどの葛藤を抱える人物として描かれている。
軍師として曹操に仕える。曹操の覇道を裏で支え続けるが、自らは腐敗しきった漢王朝の復活を信じており、漢王朝に取って代わろうとする主の曹操との間に次第に軋轢を生んでいくこととなる。
曹操の次男。曹操の死後、後漢の皇帝からの禅譲を受けて皇帝に即位し、魏王朝を建てる。皇帝として優秀な内政能力を見せるが、軍才に長けた父親と自らを比べ、自らの軍才のなさをコンプレックスに感じている。
魏の将軍。曹操の死後、曹丕・曹叡に仕え、諸葛亮のライバルとして蜀と戦う。諸葛亮との戦いではたびたび敗れるが、自らを苦しめる諸葛亮に畏敬の念を感じるようになる。
曹操の親族で腹心の部下。実直な武人であり、智謀に長けた荀とともに、主に武の面で曹操の覇道を支える。
曹操の護衛役を務める武将。勇猛無比でありながら、曹操に絶対の忠誠を誓っており、曹操からは「虎痴」のあだ名で呼ばれている。
はじめは呂布の部下であったが、呂布の死後に曹操に仕える。呂布の配下であったことから騎馬隊の指揮に長けており、袁紹軍や呉との戦いで名を挙げる。
石岐
「北方三国志」オリジナルキャラクター。曹操配下のスパイ組織である「五錮の者」の長。当時としては珍しく仏教(浮屠)を信仰しており、仏教の信仰を認めることと引き換えに曹操に忠誠を誓う。
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呉
「北方三国志」のストーリー上の鍵の一つとなる「玉璽」を発見し、天下獲りへの野望を燃やすものの、劉表との戦いの中で戦死する。
孫策
孫堅の長男。父の死後は袁術に服属していたものの、父の果たせなかった天下獲りの野望を果たすべく、袁術から独立し、義弟の周瑜とともに一代で江南に大勢力を築き上げる。しかし、ひょんなことから非業の死を遂げてしまう。
孫権
孫堅の次男にして孫策の弟。兄の死によって江南の領土を統治することとなる。父・兄と異なり、天下獲りへの野望を持っておらず、呉を戦乱とは無縁の豊かな理想郷とすることを自らの宿願とし、作中終盤には呉の皇帝に即位する。
周瑜
作中中盤の主人公格の一人。孫策の親友にして義弟。義兄の孫策の死後、その志を受け継ぎ、天下獲りを狙う。呉を狙う曹操を迎え撃つべく、赤壁の戦いでは劉備と手を組むが、その後は劉備を排除して呉と魏で天下を二分するという野心を持つ。しかし、劉備軍との戦いの中で力尽きる。
孫策・孫権の二代にわたって仕える老臣。若き孫権の相談役として活躍する一方、暗殺や謀略といった汚れ仕事を一手に引き受ける。
周瑜の後継者として、周瑜亡き後の呉軍を率いる。夷陵の戦いで劉備を破ったことで大きく成長し、呉の軍事を一手に担うこととなる。周瑜と同様に「天下」への野望を秘めているが、天下獲りよりも呉の発展を目指す孫権とたびたび衝突する。
幽
「北方三国志」オリジナルキャラクター。呉の南方に住む山越族の族長の娘。周瑜に忠誠を誓い、呉の間諜として活躍する。このほかにも、山越族は周瑜の下で精鋭部隊である「致死軍」として活躍している。
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その他
呂布
匈奴の血を引く猛将。序盤の主人公格の一人。作中では最強の武力を持つ豪傑であり、最強の騎馬隊を率いて活躍する。演義では裏切りを繰り返す悪逆非道な人物であるが、「北方三国志」では己の矜持を大切にする漢として描かれる。
妻の瑶に亡き母の面影を重ね合わせて溺愛し、妻への想いから丁原・董卓という2人の養父を殺害する。妻の他には、相棒の赤兎馬に並々ならぬ思いを抱いている。
瑶
「北方三国志」オリジナルキャラクター。呂布の妻で、呂布よりも年上である。呂布は年上の彼女に亡き母の面影を重ね合わせ、溺愛している。呂布が瑶に一途なあまり、養父の董卓との関係が悪化していくことに心労を募らせ、病を得て病没する。
はじめは曹操の部下であったが、漢王朝に代わる自らの覇道を追求する曹操についていけず、呂布の陣営に入る。呂布の腹心の部下として、呂布に不足している智謀を補い、曹操に立ち向かっていく。
袁紹
漢王朝の名門の出身。漢王朝を私物化する董卓を討伐するため、旗揚げを行うものの、董卓の排除に失敗する。その後は河北四州を領土とする最大の群雄となる。曹操や孫策らとともに、天下獲りを狙うものの、その目的のためには手段を選ばない冷酷さを持つ。また、息子たちの才能のなさに失望している。
作中中盤・終盤の主人公格の一人。涼州の豪族で、争いの絶えない世間や人生に対して虚無感を抱いているが、涼州の反乱軍の首魁として曹操と争う。曹操に敗れた後は、好敵手の張飛や自らの心に寄り添ってくれた簡雍の仕える蜀に仕官する。主の劉備や親友の簡雍の死を機に、山中で隠遁生活を送る。
作中中盤・終盤の主人公格の一人。漢中郡を支配する宗教組織・五斗米道の教祖張魯の弟。教祖の兄に代わり、武将として軍を率いる。領土欲の薄い兄と異なり、五斗米道をもとにした宗教王国の建設を夢見ている。曹操が漢中に攻め寄せた際に、曹操に降った兄とは袂を分かち、あくまで自らの夢を追いかける。
袁綝
「北方三国志」オリジナルキャラクター。本作終盤のヒロイン。馬超が西域の砂漠で出会った少女。何故か皇帝の証である玉璽を持っており、玉璽を持つ彼女を巡る物語が、本作終盤の一つのストーリーとなる。
成玄固
「北方三国志」オリジナルキャラクター。烏丸族出身の人物。馬を巡る争いをきっかけに劉備と知り合い、劉備の配下となる。戦場で重傷を負ってからは引退し、故郷の白狼山で牧場を営む。呂布から託された赤兎馬を引き取り、赤兎馬の子供たちを育てる。
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まとめ
以上、「北方三国志」の登場人物を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。
「北方三国志」の特徴としては、物語の序盤・中盤・終盤を通じて明確な主人公がおらず、複数の主要な登場人物たちの群像劇となっています。そして、正史には登場しない「北方三国志」のオリジナルキャラクターたちが、物語に花を添えています。このように、「北方三国志」は史実とフィクションを上手く調和させた素晴らしい作品と言えるでしょう。
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